Fat IRUKA's Painful Efforts Days

-太イルカ、その涙ぐましい努力の日々-



EMS



 EMS、それは「郵便追跡サービス(electronic mail service)」ではない。 「欧州通貨制度(European Monetary System)」でもなければ、「拡張メモリ仕様(Extend Memory Specification)」でも、「電子機器受託生産サービス(Electronics Manufacturing Service)」でもない。 そうである。 それは、Electrical Muscle Stimulation、即ち「低周波を使って筋肉活動を促すフィットネスツール」なのである。
 1960年代に確率されたこの技術は、筋肉が低周波シグナルを与えられると瞬間的にギュッと引き締まる「収縮」という現象を起こす性質があり、この低周波シグナルが止められると「収縮」が解かれ「弛緩」してリラクゼーション状態に導かれることを利用したものである。 筋肉は、この「収縮」と「弛緩」のリズムが適度な間隔で繰り返されることによって、運動によって鍛えられるのと同等(或いはそれ以上)の効果を得られる。 要するに、強弱の低周波を一定の法則で流すことで筋肉の自発的な収縮・弛緩を繰り返し、利用者は体を動かすことなく腹筋を鍛えることができるという夢のような技術で、現在さまざまな分野に応用され、スポーツにおけるアスリートの筋肉トレーニングやエステティック・サロンでのシェイプアップなどの分野で広く活用されている。 引いては、ご家庭で汗に塗れてきついトーレニングをすること無しに痩せたい部分だけ楽して痩せたいと願う主婦層に受けること間違いなしなツールであり、それはうみのイルカの願望にもど真ん中どんぴしゃストライクなのであった。

「やっぱ高いなぁ…、でも」

 今までダイエットの為に幾多の健康機具を利用してきたうみのイルカ25歳だが、一回も自分で購入したものは無い。 エアロバイク然り、ロデオボーイ然り。 それらが大抵、客の足元見た非常に高額商品であることも最も大きな理由ではあるのだが、デカくて場所を取るというのもあった。 イルカの家はアカデミー独身職員専用の寮で、間取りこそ2DKと聞こえはいいが実際は4畳半の居間と3畳ほどのキッチン、6畳の私室という簡素なもので、風呂とトイレが別々に付いているのがせめてもの贅沢だというくらい、余計なものなど一切置けないアパートだ。 独身とは言えアカデミー教師というものは何かと物が必要で、細々とした色々な物がイルカの家には溢れていた。 ただでさえ片付けも儘ならないほどのそんなイルカの家に、最近一人の上忍さまが半居候状態で居るようになって、更にスペースは圧迫気味なのである。 加えて言うなら、その上忍さまはイルカが使ってみたいなと思う健康機具に一々文句を付けたがるので、そういうものを人から借りて試使用する時でさえ、彼が長期任務に出ている間を狙ってこっそりと、と言う具合なのだ。 自分で買って隠しようのない狭い我が家に置いておくなんて以ての外。 だからいつも、そういう物を人が持っていると聞くと、耳がぴくぴくっとなってしまうイルカなのであった。 だが今回のターゲットは小さい。 これくらいならどこにでも隠せそうだ。 それに、高価と言っても今までのウン十ウン万コノハというのに比べたら数万コノハで済みそうだというのもイルカのツボを押した。

「よしっ 買ってみよっと」

 変な物また他人から借りるとあの人また怒るしな、と独り言ちながらもアッサリと購入決定してしまうイルカ25歳。 彼が怒るのはソコんところじゃないでしょう?と突っ込んでやってください。 ちょっとアバウト過ぎやしませんか、と。 それに、そんなモン買ってもし彼の上忍にみつかったらドウイウコトに使われるか、もっと想像した方がいいんじゃないの?とも突っ込んでやってくださいええ。 ソノ方面に関しての学習能力がひどく低い、否、皆無?なイルカ25歳。 ネットで検索して値段・機能を比較検討した結果、比較的安くて機能もまーまーなその商品の「ご購入」ボタンをクリックしたのが一週間前の晩の話。 それが今、自分の手元に届いたのである。

               ・・・

 カカシはイルカと違い、優秀な学習機能が哀しいほどの高性能CPUを搭載しているので、今度もまたイルカが妙な機械を誰かから借りてきたに違いないと、息を忍ばせて入ったイルカの家のイルカの寝室の襖の前で、長期任務に疲れた体に鞭打ってそっと気配を探った。

「うっ …ふぅ… うっ」

 気配はイルカのものだけだ。 でもこの喘ぎ声にも似た呻き声はやはり、中でこっそり何かやっているらしい。 いったい今度は何をやっているのやら。 イルカの健康機具好きは最早オタクの域であると、カカシも最近諦めがついてはきたものの、イルカにそれを貸した相手の意図などを推し量ると、どうしても捨てては置けない。

---あの人、どうしてこうおバカさんなのかな

 何度も妙な事態に陥っては自分が助けてやっている(とカカシは思っている)というのに、全然懲りない。 それに妙に頑固。 こうだから危ないでしょダメでしょと、くどくど説いても一向に聞く耳持たない。 俺、なんであの人好きなのかな。 あんなめんどくさい性格の人、今までだったらいっくら体が好くっても一回かそこらでハイさようならのはずだった。

「あっ ふぅ… ふっ」

 むむむむっ なにやってんだ、あんな声出しちゃってっ くそーっ み、見たいかも。 前は頭に血が上って直ぐに乗り込んじゃったけど、今度は気付かれないように幻術でも何でも使って覗いてやるぅっ
 そっと襖を開けると同時に写輪眼発動。 襖は開いてないし誰も入ってきてないですよー。 さー、なにやってんのかなー。 何をどうしたらそんな声が…。 狭い部屋にはイルカのベッドと箪笥と机がある。 てっきりベッドに居るかと思ったのだが、彼は机の前で椅子に座って背凭れに仰け反るように寄りかかり、定期的に「う」とか「ぐ」とか息んだ声を上げて体を強張らせ、何秒間かの後「ふー」と弛緩するのを繰り返していた。 背中からはイマイチ何をしているのか判らなかったが、幻術に掛かるまでも無く、気配を消したカカシに全く気付きもせずにいるイルカの肩越しに前を覗いてやっと合点がいった。

---あー、低周波…なんとかいうヤツ

 なーんだ、一人エッチしてんのかと思った(残念)。 彼は腹の部分だけを捲り上げ、そこに電極のような物を左右対称に4個貼り付けていた。 それからは細い線が伸びていて四角い箱型の機械に繋がっており、その機械はコンセントに接続されている。 電気刺激で筋肉運動をさせるってヤツだなウン。 液晶画面とつまみのような物だけの簡単な作りのようだが、イルカの様子を見るに、特に一々捜査をしている風も無いので、一回コース設定をすればそれなりの動作をしてくれるらしい。 ふーん、なるほどねぇ。 これは中々よくできている。 今までイルカが持ち込んだ色々な物に比べたら、随分まともそうだが、けどでも…

---腹筋とかすりゃあいいじゃんっ

 まったく。 楽してお腹の肉落とそうって? それに、机の上を見ればアカデミーから持ち帰った仕事の山が広げてある。 痩せながら他のこともできるって? でも、この様子じゃあ「ながら」仕事は無理っぽいな。 ちょっと出力上げ過ぎなんじゃないの? まーったく! 楽に短期間で効果絶大!とかいう煽り文句に釣られたんだろうけど、このどっちつかずな中途半端さ加減がイルカだな、と呆れるやらかわいいやらだ。 そ・れ・に、この機械、ちょっと使えそーよ? どれどれ。
 カカシは、相変わらずこちらに気付かないイルカの足元に落ちていた説明書を拾い上げると、ふむふむと一通り読んだ後、すっとイルカの額に人差し指を当てて本格的な幻術をかけた。

               ・・・

 良い子は決して真似してはなりません。


「あはっ あ、ふ、ふくっ」

 最弱にしてある。 でもやはり、取り付けた部位が部位だけに、「効果絶大」?みたいな? それに、ずーっとではなくて適度なインターバルが挟まるってのが、快楽中枢を麻痺させることなく緩やかではあるが確実な刺激をそこに与え続けている…つまり、生かさず殺さずで喘ぎ続けさせているんだな。 よくできてる。 イビキに教えてやろう。 拷問にぴったりだ。

「う、ふ、ふん…、ん、はっ あん」

 あー気持ちぃ。 イルカが低周波刺激で体を強張らせる度に中が締まる。 今ちょうど疲れてるし、楽でいーなー(<最低)。 イルカは夢の中だ。 どんな淫夢を見ているのやら。 電極を貼られた×××がピクリピクリと震えて泣いてる。 きっとエロい夢なんだろーなー。 俺に×××を××××されて×××な感じになっちゃってアハーンみたいな?イヤーンッ

「はっ あうっ」

 思わずグイと中を抉りつけると、イルカが仰け反って悶えた。 両手はベッドヘッドに括りつけてあるので、どんなにもどかしくても自分で×××を××××できないし、でも低周波刺激は弱すぎてイクにイケないところにもってきて、奥を突かれたらもうそりゃ身悶えちゃって捩っちゃって…

「ぁ、ぁぅぅ、カ、カカ…さ、…なさ…、ごめ…なさい」

 え? なに? なんで「ごめんなさい」? なんで泣いてんの? 好すぎて? え?え?

「イルカ、イルカッ」

 やり過ぎたかと慌てて電極を剥ぎ取り、頬をパチパチ叩くと、イルカは薄っすら目を開けた。

「カ…カカシさんっ」
「イルカ先生、ご」
「ごめんなさいっ」
「え?」

 こちらが謝るより先にゴメンナサイされてしまって焦っていると、まだ状況を掴み切れていないイルカが、自由にならない両手をギシギシと引っ張りながらポロポロ泣き出した。

「今、解いてあげるから、ちょっとじっとしてて」
「ごめんなさ…、俺、もうアナタとは付き合えない」
「…は?」
「もう俺のこと捨ててください」
「な、なに言って」
「あんなにアナタに注意されてたのに…俺、俺、他の男に…」
「他の男?!」

 片方だけ手首の戒めを解いたところでそんな台詞を吐かれ、聞き捨てなら無いと胸座掴んで…おっと掴めない服が無い…両肩掴んでグラグラ揺すると、イルカは泣き濡れてフルフル首を振った。

「さっきまで、俺、他の男に…抱かれてました…ごめんなさいっ」
「さっき…?」

 それって俺じゃあ…?と首を傾げているカカシをそっちのけにイルカの暴走は更に加速する。

「さっき、部屋にいつの間にか知らない男が入ってきてて、俺…気が付いたらソイツに身ぐるみ剥がされて」
「知らない男って…イルカ先生」
「し、縛られて、抵抗できなくて、俺、ソイツに犯されました」
「違うって」
「いいえっ 違くないです。 俺、ソイツになんか色々されて」
「い、いろいろって?」
「×××を××××されて×××になって、俺、何度もイっちゃって、俺」
「…」
「他の男に…なのに…俺」
「イルカ先生?」
「だからもうアナタに抱かれる資格無いんですぅっ ううっ うううっ」
「イルカ先生ぇ」

 まだアンタの中に俺が入ってんじゃん、これどう説明付けたらいいのかしら、でも一から話したらなーんか逆切れされそうで恐いもんがあるし、それほどパニクッてるし泣いてるし、もーーーっ

「アンタッ なんでそうおバカさんなんですかッ!」

 もーっ! とイルカの上に突っ伏したら思い切り奥を抉ってしまい、その時イルカが「アン」とかわいく鳴いたので、もーいーやと取り敢えず色々な事は置いといて最後までセックスを続けちゃおーと、泣くイルカの両足を抱え直しヤリたいだけヤッてしまった取り敢えず優先順位第一位はエロの男カカシ26歳、無駄に優秀なシミュレーション機能を搭載したCPUを持つ男。 この後、イルカをどのように宥め賺したらいいかしらんとヤリながらもアレコレ考える。

---ただの夢だったんだと納得させるには、幻術にかけてたって白状しないとだよな
---とすると、俺が×××を××××で×××したことも白状しないとだよな
---「カカシさん、酷いっ 俺が不能になっちゃってもいいんですかっ」とか言われそう
---「アナタはただ穴が有ればいいんですもんねッ」とか
---「どうせ俺じゃなくっても、アナタには関係無いんです、そこに穴さえあれば」とか
---(<穴穴はしたない)
---もちろん穴は重要だが、それがイルカの穴じゃなくてどうする?

 そうだ、イルカ以外にはもう勃起たないって訳じゃあないが、一等ヤリたいって思うのは彼なのだ。 長く里を離れた後で、まっさきに顔を見たいと思うのも彼。 顔を見たらぎゅーってしたくなって、ぎゅーってしたらぶちゅーって、ぶちゅーっの後はあーしてこーしてえへえへ。 そ、それが、そのイルカが他の男に×××を××××されて×××なんて絶対許せーんっ たとえ夢だとしても(<オマエが見せたんじゃ)、たとえ俺だったのに勘違いしてるだけだとしても(<オマエの所為じゃ)。 あ、なんか俺が腹立ってきたぞ。 もう、どうしてくれよう、このおバカさんはっ めちゃくちゃ愛しちゃうぞっ それっそれっどうだっ うりゃっ!

               ・・・

 まだ、片方の手首を縛ったままだったことを、終ってから思い出した。 カカシは赤黒く残った痣に恭しく接吻け、ごめんね、と溜息混じりに呟いた。 気を失っているイルカが起きた時、何て言って解らせたらいいだろう。 下手な事言って臍枉げられても困るしな。 もーめんどくさい、また幻術でも使ってごまかそうっと。 この人が何言ったって、俺は手放すつもりなんか無いんだから。 まったく困ったおバカさんだよ、とまた溜息を吐き、ひとつ大欠伸をしてイルカの隣に潜り込む。 次に目を覚ました時、そこに狂乱が待っているとも知らず。


 バカはオマエじゃ






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