Christmas Holly
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二人で買出しに行った。 近所のアーケード街は人でごった返していた。 赤、緑、金の電飾。 流れるクリスマス・ソング。 去年と似た風景に胸がシクンと痛む。 両手にはいっぱいの荷物。 ターキー、バゲット、シャンパン、野菜、花…。 後はケーキだけ。 カカシは貼り付いたようにイルカにくっついて歩いた。 イルカが少しでも遅れると自分も歩を緩める。 立ち止まれば立ち止まる。 視線を追う。 声に耳を欹てる。 人混みで、イルカの声は途切れ途切れになりがちだった。 不安で、思わず顔を寄せてはイルカに笑われた。 二人ともイヴの日にコンサートが入っているので、一日早い晩餐だったが、明日もできるだけ一緒に過ごそうと約束している。 別に何をしなくてもいいから、ただ一緒にいようね、と。 プレゼントは結局マフラーを買った。 淡いグレイッシュブルー一色のシンプルなもので、あの濃紺のコートによく合う気がした。 素材は薄手のカシミヤで、軽く手触りがふわふわすべすべで暖かく、イルカの弱い喉を少しでも守れたらいい。 それに、これならイルカも素直に受け取ってくれるかな、と思った。 イルカはまだ、どこか遠慮がちだった。
「ねぇカカシさん」
どこかぼうっとしていたのか、イルカに呼ばれてビクリとした。 覗きこむ程イルカの顔近くにまで顔を寄せ、なに?と聞くと、イルカはふわっと微笑んだ。
「カカシさん、変ですよ? さっきから」
「そ、そうかな」
「俺、どこへも行きませんよ?」
「…」
見上げてくる顔。 少し上がる顎と、覗く白い喉元。 黒い瞳。 唇。
「俺、不安で」
声がみっともなく震えてしまった。
「カカシさん」
イルカは荷物を抱えた手を少しだけ伸ばしてカカシのコートの袖口を掴んだ。
「俺も、不安です」
「イルカ先生?」
「さっきから、擦れ違う女の人みんな、あなたを見てる。 中には顔を知ってる人もいたみたいだったし、俺…」
「そんなの関係ないよっ!」
「俺、あなたの隣、歩いててもいいですよね?」
「イルカ先生っ」
荷物を放り出して抱き締めようかと本気で思った。 だが、それより早く、イルカの方が動いた。 掴んだ袖をぐっと引き、頭を胸に押し付けてきたのだ。 顔は俯いていて見えなかった。 こんな街中であのイルカがそんな事をするなんて、と一瞬硬直してしまう。 胸元で押し殺したようなイルカの声がした。
「帰りましょ」
「え… でもケーキ…」
「いらない」
「イルカ先生?」
「帰りたい」
ぐりぐりと擦り付けられるイルカの黒い頭で揺れるポニーテール。 カカシはそれをじっと見つめ、無言で両手の荷物を片腕に一緒くたに抱えると、イルカの肩をぐいと引き寄せて踵を返した。 そのまま早足でアーケードを歩く。 浴びせられる驚いたような視線がいっそ心地よかった。
玄関ドアをしめた瞬間にお互い首を伸ばしあって接吻けをした。 もどかしく靴を脱ぐ。 だがイルカのために、ベッドルームの暖房だけはまず入れた。 買った物を取り敢えず冷蔵庫に放り込むイルカがおかしかった。
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