Christmas Holly



- snowman -


 昨日は自分の方が盛り上がってしまって恥ずかしかった。 何も食べずにベッドに潜り込みカカシを求め、翌日のクリスマス・コンサートの事も忘れて「もっと」と強請ると、カカシの方が眉を寄せてここまでだと止められた。 そしてサッサと風呂の用意をし、食事の用意をし、しっかり食べて早めに休みましょうと自分を促す。 こんなカカシ、見たこと無い。 それとも自分がガッツくような態度をしたので、呆れて冷めてしまったのだろうかと、イルカは恥ずかしいやら切ないやらでその夜を過ごした。 翌朝、カカシより数時間早く家を出なければならないイルカに付き合って起き出してきたカカシに、玄関でプレゼントの包みを渡される。 マフラーだった。

「わぁ」

 剰えカカシの手でその場で取り出され、首にしっかり巻かれた。 柔らかで暖かなその肌触りが自分を包み込むと、何とも言えない気持ちになった。

「あったかい…」
「気に入った?」

 イルカは言葉が出ずにただ頷いた。 涙が零れそうになるのを何とか堪え、ごめんなさい、と謝った。

「俺、まだ何にも用意ができてなくて。 昨日、あなたに何がいいか聞こうと思ってて忘れました…」

 思わず自分の痴態を思い出し、頬が熱くなる。 下を向いて「ごめんなさい」と繰り返すと、顎を取られて接吻けられた。

「今日もらうからいいよ。 遅くなっても帰ってこれるでしょ?」
「はい。 打ち上げがあると思いますけど、程々にして帰りますから」
「うん、がんばってね」
「カカシさんも」

 またチュッと接吻けを交わし、手を振るカカシに手を振り返して玄関を出た。

               ・・・

 バタンとドアが閉まり、足音が遠退く。

「ぐぅぉぉおおーーーっ」

 拳を握って雄叫びを上げ、

「よっしゃぁああーーっ」

 ガッツポーズで両手アクション。

「くぉーーっ 偉いぞ俺、よく我慢したっ!!」

 地獄だった、正直。
 かわいく強請るイルカなど中々見られない。 しかもどこか心細げに物問いたげに自分を見つめる瞳の切なそうなこと! 気が遠くなりそうだった。

---誰か俺を褒めてっ 誰でもいいから

 と思い事務所に行こうかと考えて止める。 あいつらにこの幸せを分けたら減るっ あと五日我慢だ、俺! そしたら天国が待ってるぜっ!!!

             ・・・

 コンサート後、楽団内でのささやかなクリスマス祝いの乾杯に付き合い、先生に近況報告などしていると、なんと当のカカシが迎えに来て驚かされた。 初めてのことだった。 ここには先生も居るし古くからのカカシの知り合いが多いらしいので、時折同僚達の口の端にカカシの話が昇る。 だから偶には挨拶に行かないかと何回か誘ってはみたのだが、カカシが行くと言ったことはなかった。 中学、高校とその地で先生と過ごしたらしいカカシの様子は、皆ははっきりとは言わないが、それでも結構悪かったらしい事が窺える。 だから来辛いところがあるのかな、と無理に誘ったりはしなかったのだが、悪びれず昔馴染みらしい楽団の先輩達とすぐに歓談しだすカカシが、どこか知らない人のようだった。

「帰る仕度してきますね」

 昨日からの気後れもあり、イルカはロッカールームへ逃げ込んだ。

---俺、大丈夫だ、大丈夫。 一番肝心なのは自分の気持ち

 目を瞑って自身に言い聞かせる。 もう逃げ出したりはするつもりはないけれど、先程のようなカカシを見るにつけ、まだまだカカシの隣に自信を持って並べない自分を感じる。  リサイタルなどでバリッとタキシードを着込み、チェロを片手に颯爽と現れるカカシは、何回見ても溜息が漏れるほどかっこいいし立派だった。 家でヘタレているカカシとは本当に別人だ。 同居して共に居れば居るほど、はたけクロウとカカシが遊離していく。 だからカカシの手を掴んで家に逃げ帰りたくなるのだ。 昨日だって…。
 
---全然、ダメだ… 自信ない…

 座り込んで膝の間に顔を埋め、一頻りへこむ。 皆にカカシとステディだなどと言わなければよかった。 あれだって判ってくれそうな人に少しでも認めてもらえれば、自分の安心に繋がるのではという打算があったのではないかと、後になって感じ出し、浅はかだったと後悔した。 カカシの耳に入っているだろうか。 何か困った事になっていはしないだろうか。 俄かに心配になり、慌ててコートを着る。 ハンガーには今朝カカシに掛けてもらったマフラーが残った。

---いい色、カカシさん趣味いい

 手に取ると柔らかく優しい感触が伝わってきた。 堪えきれずポロリと一滴涙が零れてしまった。 優しいカカシ。 かっこいいはたけクロウ。 逃げ出したい自分。 あまり遅いと訝しがられる。 もう行かなくちゃ。
 ホールに戻ると、カカシは先生と真剣な顔付で何か話しこんでいた。




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