Christmas Holly



- heart -


 イルカは何が欲しいんだろうか。 去年のクリスマスは思い出したくも無いのだけれど、自分は随分後でだったが紅経由でイルカのプレゼントを手にすることができた。 今でも大事に大事にしている。 でも自分は何もあげられなかった。 今年はちゃんと贈りたい。 できればイルカの喜ぶものを。 それが問題なのだった。 想像もつかないのだ。

「今年はイルカちゃんと過ごせるわね、クリスマス」
「う、うん」
「去年は悲惨だったな」
「う〜」
「この世の終りって顔、してたわよね」
「そうそ、何聞いても上の空でよ、何にも喋んねぇし、そうかと思えば突然奇声を発して頭をドカドカ壁にぶつけたりよ」
「こわかったわぁ、アレ」
「思い出さすなよっ」
「あの時のこと考えると、夢みたいよね?」
「夢なんじゃねぇのか」
「あーっ うるさいっ」

 まともに考えることもできないのかよ。 こいつらに聞くことだけはしたくない。 どうせからかわれるだけだ。 イルカ本人に直接聞ければいいんだけど、同棲してるんだしいつでも聞けそうなもんだけど、これが中々聞けないんだよなぁ、と溜息を吐く。

「イルカ先生、何が欲しいのかな…」
『俺、カカシさんが居ればいいです』
「! この髭熊っ うるさいよっ」
『カカシさんと過ごせれば何にも要りません』
「おまえら、あっち行けっったら」

 アスマと紅が声と品を作って耳元でおどけている。 でも言いそうだよなぁ、と自分でも思ってしまう。 アスマも紅も、案外イルカの事をよく把握しているので、繰り出してくる攻撃が的確だ。 グサリグサリと芯を突く。 去年思いも由らない行き違いで、よもやこのままお別れかという事態を招いて、イルカとクリスマスを過ごしてやれなかった事を責めているのだ。 そうだ、あの時は自分も寂しかったけれど、イルカにもとんでもない寂しいクリスマスを過ごさせてしまった。 全部自分の所為だ。 あんなことは二度とごめんだ。 一緒に過ごせるという事がどんなに大事か判る、判るんだけど…

「なぁ、イルカ先生みたいな人ってどんな物が欲しいのかな?」
「なによぉ、あっち行けって言ってなかった?」
「そうだぞ、おめぇ勝手だぞ」
「悪かったよ、この通り、悪うございました。 お願いします、協力してくださいったら、なぁ」
「そうねぇ、イルカちゃん無欲そうだもんねぇ」
「いや、ああいうタイプに限って結構物欲あったりしてな」
「そうかしら? ああでも、貧乏そうだもんねぇ、我慢してきたものって意外とあるかもしれないわね」
「我慢してきたもの? たとえば?」
「煙草とか?」
「アホかっ 吸って来いよ、ただし外でな!」
「なんだよ、自分が禁煙したからって」
「イルカ先生の為なら俺は何でもやる」
「涙ぐましいわね。 でもいいわねぇ、そういうさり気ない気配りって結構ポイント高いわよ」
「そ、そうかな」
「相手に知れた時にな」
「態とらしいとポイント低いわ」
「ぐ… も、いいよ、それは。 プレゼントだよ、俺の知りたいのは」
「そう言えば、イルカちゃんいっつも古くっさいヨレヨレのダッフル・コート着てなかった?」
「おう、着てたぜ、紺のだろ?」
「そうそう、濃紺の、学生が着るみたいなの」
「ああ、そう言えばコートって一着きりみたいだな」
「イルカって、まだ着れるからとか言って絶対新調したりしないタイプっぽいよな」
「そうそ、消しゴムとか豆粒みたいになるまで使うってうゆーか」
「エンピツにサック嵌めて使うタイプってゆーか」
「そう言えば靴下も繕って履いてたな…」
「そそそそそそ! そういう感じ!」
「なに喜んでんだよっ 悪りぃかよっ イルカ先生は節約家なんだよっ」
「あらぁ、悪いなんて言ってないわぁ そういうとこもかわいいって、言ってるだけじゃない」
「ほんと、イルカがやるとかわいいよな」
「イルカ先生は何してもかわいいんだv」
「それで、コートにするの」
「それがいいんじゃね」
「振っといてなんだよ!」

 コートかぁ。 でも何だかあのダッフル・コート、すっごく大事そうだしなぁ。 似合ってるし、紺もとてもよく合う。 ダブダブのコートに着られてるみたいにしてぽてぽて歩くイルカのかわいいことったらない。

「やっぱり今度それとなく聞いてみるかなぁ」
「なんだよ、俺達考え損か?」
「あたしが聞いてあげましょうか?」
「いいから、おまえら余計なことすんなよっ おまえらが動くと碌な事ない。」
「ひでぇ」
「ひどいわ」

 何がいいかなぁ。




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