Christmas Holly
- bell -
去年のクリスマスは、行き違いからそれぞれ別々に寂しく過ごしてしまったので、今年はなんとかささやかながらも二人でそれなりに楽しく過ごしたいと、イルカは望んでいた。 プレゼントも去年は人づてでカカシに渡った。 今年は手渡したい。 でも、何がいいんだろう。 カカシは何が欲しいだろう。 本人に聞ければいいのだけど、とぼんやり考え込む。 9月のカカシの誕生日から3ヶ月、カカシの部屋で同居しているのだから簡単に聞けそうなものだったが、聞けなかった。
「だって、聞いたらきっと…」
”イルカ先生が欲しい!”
と言うに決まっている。 同居後、職場である楽団まで正味3時間は掛かる通勤路を、イルカは毎日通っていた。 朝は早く、夜は遅い。 公演日直前は帰ってこれないことも儘あった。 それに金曜日だけになってはしまっていたが、例のバイオリン教室もまだ続けていて、その日はカカシの部屋を素通りして横浜まで直行している。 時間が足りなかった。 あの”ハネムーン”以来、カカシとまったり過ごした覚えがない。 カカシの欲求不満が募っていることを肌で感じてはいるのだが、でもどうしようもなかった。
”イルカ先生の時間が欲しい”
目が訴えている。
「でも、これでも頑張って毎日帰るのだけは帰ってるし」
それに、肌を合わせていない訳でもないのだ。 ただ程々にとお願いしているだけで、カカシの求めを拒否したりはしていない。 カカシも事情を判っているから無理強いをしてこないのだと、イルカは理解していた。 でも時々ぽつりと言うのだ。
”俺のために休んで?”
ハネムーンの時一回だけ言われて、3日休みを延ばした。 頑是無い子供のお強請りようなその望みには、それ以来応じてやれていない。
「俺だってそうしたいんだけど…」
クリスマス、年末と、公演が続き書き入れ時なのだ。 その上、カカシの事務所のチャリティも年末に公演が決まっている。 あれが済むまで無理だよなぁ。
「でもクリスマスに一緒に過ごせない訳じゃないし、プレゼントしたいし、何か物で欲しいって言ってくれないかなぁ」
「なんだイルカちゃん、クリスマスのプレゼントの心配か?」
その時、楽団の先輩が声をかけてきた。
「あ、はい。 何がいいか悩んじゃって」
「へぇ、相手、居るんだ」
「ええ、まぁ」
イルカはカカシの事を話していなかったのでちょっと言葉を濁して頭を掻いた。 別にこの人達に秘密にする必要はないんじゃないかと思う。 バイオリン教室の親御さん達とは違う。 知れても自分のメリットは減らない。 自分はいいのだがカカシはどうか。 あの”はたけクロウ”が、と言われて妙な噂がたてば、カカシの大嫌いなマスコミの餌食になりかねないが、ここの人達はあのカカシの養父の”先生”のお弟子さんみたいな人達で、そんな事をしそうにはなかった。
「今、一緒に住んでるんです」
だから、もう話しちゃってもいいかな、という気になっていた。
「あ、だから遠距離通勤してるんだ」
「はい」
「たいへんだねぇ」
「いえ、それほどでもないですけど」
「で、ステディな関係なの?」
「ええ、まぁ」
「へぇ、イルカちゃんそういう相手いたんだぁ」
「なになに? 何の話?」
他の団員が話に割り込む。
「イルカちゃん、彼氏居るんだって」
---か、彼氏って、彼氏って…
「ええーっ やっぱり?」
---しかも突っ込まない?
「なんだ、やっぱり居たのかー。 残念っ」
---何が残念なんだー、あんたも男なのに!
「ねぇねぇ、誰だれ?」
「誰なんだよー」
「ええっと、それは…」
「言っちゃえよー、ここまで話したんだからさー」
「そうだよそうだよ」
「あの、はたけカ… ク…」
「ええーっ カカシちゃん?」
「あの、カカシちゃんなの相手?」
---カカシちゃん…
「先生んとこの悪ガキだろ? もうそんな年か?」
「俺達が年とるわけだわなぁ」
「あのカカシちゃんがね〜」
「なになに、先生が引き合わせたりなんかした訳?」
「えっと、まぁそんなかんじ」
半分本当だ。 あの人の立ち回り無くして今の自分達は無い。
「親公認かぁ」
「おまえは諦めな」
「イルカちゃーん」
「は、はい」
「幸せにな〜」
「はい」
イルカは笑った。 誰も”はたけクロウ”と呼ばない。 自分を有名人のヒモかとも言わない。 男同士だとも詰らない。
「俺、幸せです、今も充分」
花が綻んだように笑った、と後に同僚達が評したイルカの笑顔に、彼らは一斉に悲嘆の声を上げた。
「なんだよ、惚気かよ〜」
「この幸せ者ー」
でもプレゼントは決まらない。
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