千の星


7


 千影を殴り倒し、塒を飛び出してその城主とやらの城へ走った。 走って走って、だが城に近付いた頃には何とか冷静さを取り戻し、妖狐は僥倖にも正面から押し入ったりはせず、闇に紛れて天井裏に潜んだ。 城主の閨は天守にあった。 天板をそっとずらして下の様子を窺おうとした妖狐の目に飛び込んできたものは、両手と片足を紐で括られ三方向に引っ張られて拘束されている全裸の樒の姿だった。


 自殺防止のためか口には固く猿轡が噛まされ、目を空ろに見開いて、樒は弱々しく胸を上下させていた。 樒の横たえられている寝具の横には、木の棒の様な物がずらりと並べられていた。 細さも太さもそれぞれで表面がでこぼことしていて少し湾曲したそれらの棒が大きさの順に並んでおり、最後の方は人の腕ほども太さがあった。 と、そこへ、それまで姿が見えなかった男がひとりやってきて樒の足の間に座した。 男は褌一丁で浅黒い逞しい体をしていた。 男の手が徐に樒の股の間に伸び、萎えた樒自身を掴んで数回扱くと、もう片方の手でその下、何か突き出ている物を掴んでくいくいと一頻り回し、注挿させ始めた。 樒は一回大きく背を布団から浮かせるくらい仰け反ると、苦しげに首を振って身を捩った。 唯一自由になる足を蹴り上げたが、男は難なく足首を捕らえて自分の肩に掛け、また注挿させる作業を淡々と繰り返す。 それは、やがて樒がぐったりするまで続けられ、声も上げなくなった頃、男はその股間の物をずるずると引き出し、横に並べられた木の棒の一番端しにごとりと置いた。 腕ほどもあるその張型はぬらぬらと濡れ光り、微かだが赤い筋が何本か見て取れた。 そして、身を伏せて抜いた後の樒の後孔を検分すると、ひとつ頷いて脇に手を伸ばし壺を引き寄せ、その中に自分の右腕を差し入れた。 再び現れた男の右腕は油でも纏ったように黒光りしていた。 男は左手で更にその液体を右腕全体に引き伸ばすと、その手を拳固に握り樒の秘所に宛がった。
「んっ んーーーっ」
 樒の塞がれた口から叫びが漏れる。 拘束された体を限界まで捩り揺らして暴れるが、男は片手で樒の腹を押さえて体を倒すと同時にずぶずぶと右手を樒に捩じ込んでゆく。 最初の拳固の部分を飲み込ませるまでは格闘のようだった。 のたうつ体を押さえ込みながら男は額に汗を浮かべてじりじりと腕を回すように差し込む。 やっと男の手首までがすっぽり樒の中に飲み込まれた頃は、二人とも息が上がっていた。 特に樒は激しく胸を喘がせて、真っ青な顔色をして固く目を閉じていた。 男は、樒の喘ぐ胸や腹を撫で摩り、萎えた樒自身も何度か擦ったが一向に力を取り戻す気配の無いそこを見限ると、後ろに差し込んだ腕をゆっくり回した。
「んんーーっ」
 回しては少し進め、止まると中で手をどうにかしているのだろうか、樒の体がひくりと痙攣する。
「……ん …ぅん ……んっ」
 樒は苦しげに喘ぎ、悶えた。 男の腕は既に肘近くまで飲み込まれている。 幾分人より華奢な樒の腰から、逞しい男の腕が生えている。 信じられない光景だった。 男は、ひとつ大きく肩で息をすると、腕の抜き差しを開始した。

 樒は体ごと、男の腕と一緒に上下に揺れていた。 男が腕を回すと、樒も一緒に捩れた。 手足の拘束は既に解かれていたが、樒はただ人形のようにかくかくと揺すられて動くだけだった。 男が一旦腕を入り口付近まで抜き、勢いを付けてぐっと突き込む時だけ、ううっと声が漏れた。 それだけが、樒が生きている証のようだった。 妖狐は天井裏で転がったまま、それらが行われる様をただ呆然と見ていた。 体は見えない縄でぎりぎりと締め上げられて指先ひとつ動かすことができなかった。 あの後、直ぐに妖狐の後を追ってきた千影によって、妖狐の真名と真言を以って緊縛の術を掛けられていたからだ。 見ているだけでどうすることもできない。 悔しくて哀しくて、生まれて初めて涙を零した。 真名を握られるということがどういうことか、妖狐はこの時初めて実感として知った。 千影が憎かった。 嘗てこれほどまでにこの男を憎いと思ったことはなかった。 そして、樒を守れなかった自身をも憎んだ。
 千影は、妖狐と共に天井裏で樒がフィスト・ファックされるところを一言も喋らず見ていた。 長い黒髪が顔を隠し、その表情を窺うことはできなかったが、こういう場面で千影が軽口を叩かないのは珍しかった。 もし一言でも下で繰り広げられている光景に関して薀蓄なんぞ垂れようものなら、妖狐の怒りが自力で縛を破らせて、樒以外の全員を皆殺しにしていたかもしれなかったが、千影は黙っていた。 じっと黙ってピクリとも動かず、片膝を付いて天板の隙間に向けて体を少し傾けたまま、気配を殺してそこにいた。 そして、樒が完全に気を失うと、千影の姿はそこから掻き消え、次の瞬間下の部屋、樒の枕元に仁王立ちで出現した。

「これはこれはお館様、よいご趣味ですね。」
 妖狐からは見えない部屋の上座に向かって千影は呟くように言った。
「でも、今日はもうよろしいでしょう。 この男は妖魔を釣る餌ですので、使い物にならなくしてもらっては困ります。」
 何事か言い訳をするしゃがれ声がする。 千影はそれを適当に往なし、踵を返して樒を犯していた男に向き直る。
「あなたももう結構ですよ。 調教、ご苦労でした。」
 男は千影が現れてから硬直したままでいたが、そう言われてゆっくりと慎重に樒から自分の腕を抜いた。 樒が眉を寄せて呻くと腕を止め、暫らく腰を摩ってからまた様子をみるようにして抜いてゆく。 千影はその場に跪くと、樒の口に嵌められた猿轡をそっと外した。 頬には縛られた後が赤く残っていた。 男は腕を簡単に拭うと樒の体に薄絹を掛け、道具一式を片付けて無言でその場を立ち、敷居の処で正座をして頭を深く下げた。 その時、千影が立ち去ろうと片足を立てた調教師の男を呼び止めた。
「あなたのお名前を窺いたい。」
「調教師、高尾佐吉、と申します。」
「ありがとうございます。」
 男は無駄口を一切きかず襖を閉めた。
 



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