東方不敗

- The Asian Master -


13


          8.初H翌朝ですごめんなさいごめんなさいッ


 ふぅっと意識が浮上し、なんとなく感じた違和感を無かったことにしてイルカはまた目を閉じた。 自分の家の自分のベッドでも偶にあるもの。 例えば酔ってそのまま寝てしまって上下が逆だったりするだけで、あれ?ここどこだ?と思うもの。 だからここもきっと自分のベッドだと思い込もうとした。 ちょっとシーツが上等だなぁとか、ちょっとベッドが広い感じ?とか枕がなんかふかふかかもとか、全部無かったことにして目を閉じる。 だって体がだるいんだもの。 最近仕事が忙しすぎたし、他にも色々…。 その先を考えるのを止めにして、他に思考を転じたイルカだった。 なんとなく思い出しちゃいけない気がしたからだ。 そうだ、だって今日は休みなんだ。 久しぶりの休みだから朝寝していてもいいんだ。 だから昨夜、カカシと…

「!」

 がばっと起き上がる。 否、自分ではがばっと起き上がったつもりだった。 が、実際は頭がちょこっと浮いただけだった。 だってできなかったんだもの。

「ういてて…」

 思わず呻き声が漏れてしまった。 その途端、ドタバタガッシャンッという派手な音がどこか別の部屋からしてきたかと思うとドタドタドタっと忍にあるまじき足音と共にカカシが現れた。

「イ、イルカ先生、起きた?」

---やっぱり…

 恐る恐るといった風に顔を覗かせたカカシを見、やっぱりカカシの家のカカシベッドだったかと、思わず布団を被って寝たふりをしようかと思ったが、この人に気配を誤魔化すなど無理かと諦める。

「はい、あの… お、おはようございます」
「おはようございます…」

---だから! なんでそこでアンタが赤くなるんだ?!

 もうッやり難いったら! 赤くなるとしたらこっちだろう?そうだろう?と盛大に心で突っ込みだっていれた。 だが、実を言えばイルカも既にこれ以上無いくらい赤面しているので放っておくことにしよう。

「あの、イルカ先生? か、身体、平気?」
「か…」

 なんとか痛いのを堪えて起き上がろうと四苦八苦している所にそんな事を言われ、動作も言葉も止まってしまったイルカはもぞと顔だけ布団の端から出した。

「だ、大丈夫です! ぜんぜん、平気です!」

 その顔が真っ赤な事はイルカ自身には判らない事だが、オズオズとベッド際に近付いて横に膝を付いたところで間近にその顔を見せられたカカシにとっては衝撃的にかわいらしかったはずだ。 その喉がゴックンと上下してそのまま黙ってしまったカカシに、声も枯れていては説得力ゼロだよな、と軽ーく勘違いをしたイルカは出した首をまた引っ込めた。 でも痛いです死にそうですとは言えない。 カカシの顔は、それはもう思いっきり眉尻を下げて泣きそうに情けない風にイルカには見えたのだ。 タランと垂れて寝てしまっている両耳と、くぅーんと哀しげに鳴く声まで聞こえてきそうだと思った。

「あの、ほんとに大丈夫ですから」
「ほんとにほんと? でもなんかあの…痛そうってゆーか… ね、なにかしてほしいことない? 欲しいものとか」
「あ、じゃあ水を一杯」
「水ね!」

 判った!とぴょーんと、ぴょーんとですよ奥さん、あのカカシがボールを投げてもらった犬コロのように部屋から飛んで出て行った。 イルカは呆然と暫しカカシの去った後を見つめ、それからヤニワニやっこらせっと上半身を起こした。 水を貰うならやはり起きていなければならない。 カカシの前で痛そうな姿は見せられない、と思った。

「うぐぐぐ」

 だがやはり、背中とか腰とか信じられないほど痛い。 もちろんアソコも経験した事の無い痛みを訴えているし、どうしてなのか判らないが腕や足の筋肉も痛んだ。 それでも、身体を折って痛みに耐えているうちにまたガチャガチャドタドタパリンッと物が割れるような音まで響いてきたので、イルカは取り敢えず自分の事は置いておいてハラハラしながらそちらを窺った。

---た、頼んじゃいけなかったか?

 大丈夫かしらん、あの人は…。 火の国木の葉隠れの里の誉れ高い上忍で、音に聞こえたコピー忍者で、各国のビンゴブックにも載っていて、その上畑カカシなんだぞ?あの人は。 同一人物か? グラスでも落としたのかしら足の裏とか切ってないかしら傷に唾なんか付けてないかしら、と要らぬ心配をしながら待っていると、またドタドタと足音が近付いてきてバタンとドアが開いた。

「イルカ先生ッ はい水! 持ってき…まし…」

 水が満々と張られたコップを片手にそこまで言うと、カカシはハタリと立ち止まり、また顔を真っ赤に染めてぐりっと後ろを向いた。 コップの中身がパシャンと零れる。 あわあわとイルカが零れた始末の心配をしていると、カカシが後ろ向きのまま俯いて何かボソボソと呟いた。

「は? なんですか?」
「あ、ああああの、イルカ先生、何か着てください…」

 耳まで真っ赤だった。



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