KAKAIRU LIVES

-カカイル、ぐつぐつ煮えた生活、そして一向に進展しないサスナル&四さまのアレやコレや-


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               嗚呼!哀愁のトライアングル


「サスケ!」
「サスケく〜〜ん!!」

 横浜は久しぶりだった。 イルカ先生はまだ週一で通っているらしかったが、自分はもうバイオリンを止めて久しい。 遠いし、代わりに始めたトランペットの方が性に合っていると言えばそうなのだが、どうやってもこの二人に敵わない、というのが主な原因だと自分でも思う今日この頃。 サスケは1ヶ月ぶりになる日本でしかも数ヶ月ぶりの横浜ということもあって、サクラちゃんの目にはもうサスケしか映っていないみたいだ。 俺だってさ、数週間ぶりだってばよ?と頬を膨らませてみても、ピンクの髪に負けないくらい上気させた頬をした少女は、その相変わらず無愛想な黒髪の少年に向かって力いっぱい両手を振っていた。

「サスケくん、久しぶり! 元気だった? いつ帰国したの? 少し背、伸びたんじゃない? お兄さんとはどう?」

 矢継ぎ早に質問の雨を降らす少女に、サスケは煩そうに、だが前よりは若干優しく頷いたり首を振ったりして受け答えをした。 肉親と暮らすってどんなんかな。 あの、誰にでも冷たい態度をとって平気でひとりで居た少年を、半年足らずでこんなに丸くした。 自分には判らない。 肉親なんかいないし、生き別れの親子だなどと噂される養父は、確かに見た目だけは似ていたが、間違っても血の繋がりなどあってほしくないようなガサツな人間だった。 甘えたで、散らかし屋で、怠け者で、我侭だ。 どっちが保護者なんだ?といつも思う。 俺ってばコイツの面倒をみる為に同居してんのかな、とか真剣に悩んだりする。 時々、横浜の孤児院が懐かしくて堪らなくなることもあるし、イルカ先生やカカシ先生に会いたくなる。 サクラちゃんには毎日でも会いに来たい。 この気の強い、それでいてどこか弱い、根の優しいかわいい少女が自分を見てくれたらどんなに嬉しいか。 でもサクラちゃんてばサスケが好きなんだよな。 目がハートだ。

「…ト、ナルト! おい、ドベッ!」

 なにボーっとしてるんだ、とサスケが高圧的に呼んでいるのに気付いた。 サスケの顔が少しだけ上にある。 くそー、悔しいな、背もコイツに負けてるのか。 いつか追い越してやる。 見てろよ、と睨んだ。 睨んでいたつもりだった。 だが、サスケが険しい顔をしていきなり首筋に手を宛がってきた。 そのまま首を固定されもう一方の手を額に当てられる。 最後には前髪を掻き揚げられて額に額をゴッツンコ。 サスケの手も額も、冷たくて気持ちよかった。

「おまえッ 熱があるじゃないか!」

 両手で顔を掴まれてガクガク揺さぶられながら怒鳴られても、そうなのかな?と思うだけで反撃する元気が出なかった。 その日の遊ぶ予定はサスケによって全てキャンセルされ、孤児院へ連行された。 院長先生は、懐かしがる暇もなくあたふたとベッドや氷枕を用意に走り回り、サスケはずっとガミガミ怒鳴りっぱなし。 大丈夫だってばよ、遊びに行こうぜ、せっかく3人集まったんだしよ、と言うと、このドベッカスッボケッ!っと散々罵倒された。 ごめん、サクラちゃん、ふたりで行ってくれていいよ、と喉元まで出かかった言葉を、口に薬を突っ込まれて遮られ、水の入ったコップを押し付けられた。

「付いててやるから少し眠れ」
「ふたりで行って来いよ」
「バカ言うな、ドベのくせに」
「サクラちゃんに悪いよ」
「アイツも心配してたぞ」
「嘘?!」

 サクラちゃんのお祖父さんはこの辺りの町医者だったので、呼びに行ってくれているらしかった。 イルカ先生が熱を出す度に、ブツブツ言いながらも何度も往診してくれていた面倒見のいいお医者さまだ。 自分は熱など出したことが無かったので、往診された記憶はほとんど無い。 看てもらった事があるとすれば、転んだり落ちたり喧嘩したりで怪我をした時くらいだ。 サスケと二人で、説教をされながら沁みる傷薬を塗られた記憶なら数回あった。

「あの爺さん、注射とかしないかな」
「するかもな」
「げっ」
「恐いのか?」

 ふふん、と鼻を鳴らすその様は、相変わらずのクソ生意気だ。 だが今は反撃の言葉が出ない。

「おまえ、自分が熱あるの、気付かなかったのか?」
「うん、ぜんぜん」
「言い出せなくて我慢してたんじゃないだろうな?」
「我慢って、俺が?」

 吃驚して聞き返せば、黒い瞳を揺らして頷かれた。

「誰に?」
「だから!」

 まだ解らなくて重ねて問えば、苛々した様子で黒髪を掻き揚げる。 サスケ、少し大人びた。

「その…新しいお父さんと旨くいってんのかって聞いてんだ」
「うまくなんていくかよ、あの呆けナスと!」
「おまえ、俺んとこ来るか? おまえ一人くらいだったら兄貴に頼んでいくらでも」
「それは無理。 アイツ俺が居ないと多分おっちぬ。」
「いいように扱き使われてんじゃねぇのか?」
「違うってばよっ アイツがダメダメだから仕方なくやってやってんだよ」
「ふーん」
「サスケ、おまえこそこないだから何言ってんの? お兄さんと仲良くしてんのか?」
「俺んとこは…仲良くとかそういうレベルじゃねぇんだよ」
「なにそれ?」
「険悪な訳じゃねぇぞ。 ただ兄貴の要求するハードルが高すぎてさ」
「辛いのか? 俺んとこ来るか? 汚ったねぇけど」
「バーカ」

 サスケの、少し眇んだ目がなんだか優しそうに見えて、ありえねぇ、とか思っているうちにサクラちゃん達が戻ってきた。 注射はされなくて済んだ。


「ナ…、ナルトくんっ だいじょうぶ?!」

 夜になってバカ親父がバタバタと駆け込んできて、その顔が真っ赤で鼻水垂らしてゲホゲホ咳もしてて、院長先生がまたサクラちゃんのお祖父さんを呼びに走った。 バカ親父、自分が風邪ひいてるのに気付いてねぇでやんの。 俺の風邪もコイツに感染されたに違いない。 ほんとに手間のかかるヤツだ。 ずっと付いていてくれたサスケが、目を真ん丸くして驚いていた。

 翌日、サスケとサクラちゃんが熱を出し、結局遊びにには行けず仕舞いだった。 嗚呼!



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