休暇





猫 「ただーい……まー…」

 戸を引き開けると中に毛の塊があった。 口布を顎まで引き下げ、溜息を吐く。

---あいつら、イルカ先生んとこに入り浸りやがって

 ぐちゃっと折り重なってぐーぐーイビキまでかいて寝ている忍犬の塊の中に、だが黒い尾と黒い耳がぴょこっと覗いていた。

---イルカ先生ったら猫化しちゃってるし

 よっぽど気持ちいいんだなぁ、と思う。 そういえば今日はポカポカしていて、でも暑くもなくカラッとしていて本当にいいお日和だ。 猫がお昼寝をしたくなる、そんな陽気。

 一番手前の忍犬をムンズと掴み上げる。 ブランとぶら下がる弛緩しきった身体。

---おまえ…、今度任務から外す…

 ここまでされて全く起きもしないってのはどうなのよ?

 ポイッ

 だがソイツを放って次を掴み上げると、またソイツもブランとぶら下がった。

 ポイッ

---まったく、どいつもこいつも!

 ポイッポイッポイッポイッ!

「ぜッ ぜーはーッ」

 結局、全部投げ捨てた。 肩で息して足元を見下ろす。 最後に残ったのはイルカ。 長々と身体を伸ばしうつ伏せて、自分の腕を枕にしてクークーと寝息をたてている。 自分の目の前では右に左に揺れる尻尾の先。 それがたまーに畳を叩いたりして、まるでそこだけ別に意思があるみたいだ。 カカシは正座してそれを眺めた。

「イルカ先生?」

 起きない。

「イルカせーんせッ」

 手を伸ばし、片方の足首を掴んで身体を引っ繰り返したが、それでもイルカは起きなかった。

---よっぽど疲れているのかな?

 最近、構ってももらえなかったな。 自分も忙しかった。 どこか二人で温泉でも行きたいな、と思う。 イルカには休暇が必要だ。 そして自分にも。 お疲れイルカは、大の字とまではいかなかったが、今は仰向けになってクッタリ手足を投げ出して、口を半開きにした顔がかわいい。 髪は解いてあった。 カカシはイルカのきっちり結んだ髪を解く瞬間が好きだったので、ちょっと残念に思う。 両手でイルカの両足首を掴み、肩幅に開いて膝を立てさせた。 いつも自分を受け入れる時のかっこうだ。

「いただきます」

 カカシは両手を併せ、ペコリと頭を一回下げた。 「お行儀よく」、それはイルカの口癖。 口布を全て引き下ろし、ベストの前を開け、イルカの足の間にのっそりと身を割り込ませる。 片手づつイルカの身体の脇にそっと付き、のっそりのっそりと完全にイルカに覆い被さると、その首筋に顔を埋めた。

「う」

 ああ、イルカ先生の匂い。

「う、うん」

 イルカ先生の味。

「カ… カカシさん… おかえり…さい」

 声が掠れている。 まだ眠そうだ。

「ただいま、イルカ先生」
「なんか… 寒い… さっきまで、あったかかった…に」

 イルカが腕の中でブルっと身震いをした。 でもまだ目は開かない。

「今、あっためてあげる」

 柔らかく耳を噛むと、イルカはアンとかわいく鳴いた。

               ・・・

---ガルルッガルルッ…てなんだ

「あ、あ、あっ」

 熱い、暑い、アツイ

「ああ、ん、や、はっ」

 尻尾がパタパタ

「ああ、ああ、カカシ、カカシ」

 ガルルッガルルッ

「んんーーッ」
「うっ ん…」

 熱い… 中に熱いカカシ

               ・・・

 カカシは犬だと思う。
 ベッドに寝そべるカカシの尻に尻尾が見える。 だらんと項垂れて下がる尻尾がカカシの満足の証のように見えて腹が立った。 自分は居間の日溜まりの中で忍犬達に埋もれてぬくぬく午睡に浸っていたはずだった。 それが気付けばベッドである。 でも、身体のあちこちに畳み柄の痣があるのだから、ベッドは2回戦以降のどれかからだ。

「立てない…」

 腰が抜けていた。 でもシャワーを浴びたい、猛烈に。 汗だくだった。 ベッドヘッドに掴まってやっと起き上がった。 目の前にはクタリと弛緩しきったカカシの尻尾。 この人、ほんとに上忍か?

「バカカシっ」

 イルカは思い切りその尻尾を踏みつけたのだった。




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