死がふたりを別つまで -妖狐の廟-
- Until Death Do Us Part. -
1
生贄 一
あっと思った時は、もう扉は閉じていた。 押しても引いてもびくともしない。 海野は呆然とした。
後ろから羽交い絞めのように腕を回され首筋をべろりと舐められる。 ぞわっと総毛立ち、思い切り後ろに向けて頭突きをかましたつもりだったが、妖狐は既に元居た場所まで戻っていた。 扉に背を付き妖狐を睨んでみるものの、体中の震えが止まらない。
「ど、どうして、俺を……」
「最初からおまえ狙いだ。」
妖狐はにやにやといやらしい嗤いを浮かべながら、海野の全身を舐めるように見る仕草をしてみせる。 じりっじりっと間合いを詰められ、海野は壁伝いに逃げた。 呼吸がどうしようもなく荒くなってゆく。
「ほ、火影さま」
大声で助けを呼んだつもりが、実際に出た声はか細く震えた。
「その火影がおまえを俺に寄越した。」
「うそだっ!」
思わず出た大声に、忘れていた呼吸を突然思い出した時のように咽る海野を面白そうに眺めながら、妖狐は更に海野を追い詰める。
「おまえは捨て駒だ。 火影はおまえをそのために連れてきた。」
さっと間合いを詰め、忍服のベストの前に爪を掛けると引き裂いてまた離れる。
「あっ…ちがう…」
肌蹴た胸の爪跡に血が滲む。
「違わない。 今までにも女を何人も俺に貢いできたんだ。」
背を向けて部屋の反対側に逃げようとした海野の後ろ髪を掴んで、結い紐を毟り取ると黒髪がぱっと広がった。
「…嘘だ……あぅっ」
その場に崩れるように倒れた海野に覆いかぶさり、びりびりのベストを剥ぎ取って放る。
「嘘じゃないさ。 火影は俺がその女共をさんざん犯してから喰うのを知っていてそうしてきたんだ。」
体をひっくり返して仰向けると馬乗りになり、両腕を頭の上で拘束して耳元に囁く。
「………うそだぁ…」
海野の声は嗚咽に掠れた。
「火影はおまえがどうなるか解っていて俺に差し出した。 俺がおまえを好きなだけ犯して犯して、狂ったおまえを骨まで喰らうのを知っていて、見て見ぬ振りを決め込んだんだ。」
胸元の黒いアンダーウエァを両手で掴むと、力任せに引き裂いた。
「…」
目を固く閉じて涙を流す海野の胸の爪跡をべろりと舐める。
「火影はイルカを取っておまえを捨てたんだ。」
両の胸の飾りを交互に舐め、首筋を噛んで歯型を残すと、もう既に猛って固くなっている己を海野の股間に擦り付けながら、あははは、と高く嘲笑った。
「…………」
身を捩ってもがいていた海野が、ぴくりと体を震わすと急におとなしくなったので、もう諦めたか詰まらん、と顔を覗くと、ぱかりと目を見開いて自分を見つめている顔と出会った。 頬は涙でぐしゃぐしゃだったが、目はある種の光を宿していたし、口元は決意で引き結ばれていた。
「わかりました。 好きにしてください。」
ちっと妖狐は舌打ちをした。 息子の名を出したことが逆効果だったと解ったからだ。 しくったな、もっと泣き叫んで暴れるところを見たかったのに。 それを力任せに抑え付けて引き裂いていくのが面白いのに。 だが、まだまだこれからだ。 恐怖に引きつった顔はまだいくらでも見られる。 妖狐は海野の顎を掴むと顔をべろりと舐めながら呟いた。
「なら、お言葉に甘えさせてもらおうか。」
地獄の時間の始まりだった。
「あああああっ」
裂かれ穿たれ突き上げられて、意識は朦朧としていたが悲鳴は止められなかった。
「あぁっ あぅう う、うぅ はぁ、ぁぁ」
妖狐は海野を物のように扱った。 横にしたり裏返したり上に乗せたりして思う様揺さぶり、足首を掴んで引き裂くように広げると乱暴に突き上げた。
「いぁ ぁあ、は、ぁぁ、ぅぅ う」
裂けた傷から流れる血が乾く暇もなく、擦り続けられてまた新たな傷が開く。 今や力なく投げ出された両の手を十字に磔るように縫い留めると、ぐりぐりと大きく腰をグラインドさせて中を掻き混ぜる。 彼の猛ったモノはまだ一回も達っておらず、いつまでも海野を苦しめ続けた。
「ああ、いいよ。 おまえなかなか具合がいい。」
妖狐は時折海野のモノも握ったり擦ったりしてみていたが、恐怖と痛みに呻く海野が感じるはずもなかった。 これは交歓ではない。 ただ毟り取られるだけ。 ただのモノと同じ。 早く終わってほしい。 そしてとっとと喰らうなら喰らってくれ。 海野は朦朧としながらも失神もできず、呻き苦しんでひたすら妖狐が早く果ててくれることを祈った。
海野がそう願ったからと言うわけでもないだろうが、妖狐は徐に動きを激しくし始めた。
「うっ ああっ あうっ うぅっ」
はぁはぁと胸を苦しげに上下させる海野の肩をがっと掴むと、一際深く抉って妖狐はぶるりと胴震いをした。 体の内に熱い迸りを感じる。 妖狐はまだ強度を保ったままのモノをずるっと一気に引き抜くと、数回擦って海野の腹や胸に更に精をぶちまけた。 穢されたなどと嘆くより、これでやっと終われると思うと正直ほっとして体の力も抜け落ちた。 が、その途端、内側からのカッと焼かれるような熱さに体が強張る。
「あ? ぁあああっ」
「ふふん、もう終わったと思ったか? まだまだ、お楽しみはこれからだ。」
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