ウラジーミルは何時くるの?
3
第三夜
千夏は眠るなと言ったが、そんな訳にはいかない。 それに夢は見ようと思って見たり止めたりはできない。 私は眠り、夢を見る。 イルカの夢は非常に不定期ではあったが、それからも何回も見た。
見るたびにイルカの年齢が違う。 時系列には並んでいず、先日見た夢の時は大人だったのに、今回は子供である、という具合だった。 悪い夢ばかりではなく、ほのぼのとした時間をイルカと分け合ったりすることもあった。 そんな時は、ああこの夢は千夏に話してやって安心させてやろう、などと見ている最中に思ったりもした。
・・・
その日のイルカは中学生くらいだった。 私達は森で長いこと話した。 夢の中のイルカの世界では、こちら側ではできない事が多くできる。 それが面白くて色々試した。
それは、小さな六角水晶柱でさっき岩場で拾ったものだった。 キラキラと光る透き通った水晶を地面に三角に突き刺すと、三角錐型に薄く光の膜が張ったのだ。 指先でちょっと突くとボヨヨンと抗力があり、思わずおおーっと声が上がる。 地面の松葉を掬い上げ上から落としてみても、やはり松葉は皆三角錐の中には入れず、スルスルと滑って回りに落ち三角形を作った。
「おっもしろーい!」
石を一つ増やしてみると、ぼんやり光る小さなピラミッドができた。 驚くべき事に、その中の草がひょろひょろと視認できる速さで伸び出したのだ。
「すっげーっ」
ケンプラーのローゼットなど、人類で実際に見たものは一人も居ないはずだ。 それを私ったら見ちゃってるの?
「でも、角速度が0でも力場が生まれるっていうのはなぁ」
石そのものは回転していないけれども、何かエネルギーの流れが石と石との間にできているのかもしれない。 そう思って石を繋ぐように円を書き、悪戯に魔法陣のように対角線を結んでみる。 すると、木の枝で地面を引っ掻いただけのその線が薄っすらと光り出した。 力の流れも線が無い時より強くなった気がした。
「力が収束して強くなるのかな」
なーるほど、魔法陣ってこういうことなんだな、と思って感動する。
「魔法陣って言えば…」
六芒星だよね、とまた地面にガリガリと線を引き、ありったけの水晶をその頂点に置くと、フワーっと光の道が開いた。
「よ、よし、何か召喚してみよう」
何かってなに? えーとえーと、と思い出す。 自分の知ってるのは…
「モータルモータルデルデルファース…」
『な、なにするんですか?』
それまでただ吃驚して黙って見ていたイルカが、焦ったように声を上げた。
「まぁいいから、ちょっと見ててよ」
へへっと笑い最後の呪文を唱える。
「モータルシー…」
現れたのはちっちゃな岩ゴーレムだった。
「か、かわいいっ」
『すごい…』
掌サイズの岩ゴーレムがピコピコとかわいくそこら辺を駆け回った。
「おもしろいよっ! 次いこ次!」
『次って、ちょっと待って』
「ブーレイブーレイン……、ねねねねね、ちょーーっとだけこの辺焼き尽くしてもいいかな?」
『な、何言ってるんですか、そんなのダメに決まってるでしょうっ』
「そうだよねぇ、うーん、じゃあさ、さっきの岩場行こ」
『えーーっ』
文句を言うイルカを尻目に岩場へ着くなりイフリートを呼び出した。 さすがに直ぐに帰っていただいたが、不機嫌極まりないその灼熱の王は、そこら辺の岩石を少し溶かしてから消えた。
「すごいよすごいよ! 楽しいよ!」
『楽しくありませんっ 死ぬところだったじゃ…』
「次ー!」
『まだやる気ですか?!』
「ディ・ヴム・ステイン!」
『今度は何を?!』
「ねねねねねね、イルカくーん、地震、地震くらいいいよね? ちょっとこの辺の地精に働きかけてさ、グラグラーっとさ、ちょっとだから、ね?」
『ぜったいだめですーーーっ!!!』
俺がやったことになっちゃうじゃないですかぁ、とイルカに泣き付かれ、渋々諦める。 そうなのだ、自分達は今、ひとつの身体の中に居る。
・・・
「ねぇイルカくん、君今何歳?」
『もうすぐ15です』
「そっかー」
もう九尾の夜は終わっちゃってるんだな、じゃあ今独りだな、と少ししんみりした。 15にしては小柄だ。 それを問うと、九尾禍の後、暫らく成長しなかったのだと眉を顰めて言う。 もう中忍に成れたの? と訊くと、まだ、と力なく項垂れた。
『俺、落ち零れだから』
「そんなことないよ!」
自嘲の笑みを零すイルカを一生懸命フォローした。 君は将来、結構優秀だよ、と自分で言いながら何だかフォローになっていないなと返って落ち込む。 寂しくない?と問うと、三代目がいるから、と笑った。
「はたけカカシって知ってる?」
『知りません』
「そっかー」
まだ知らないのか。 いつお知り合いになるのかな、原作どおりなのかな、早く仲良くなればいいのに、と寂しそうなイルカを思った。
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