カカシ20景



01:写輪眼



     ふふ
     あの子に決めた
     黒髪と黒目
     初心そうな顔


               ***


 どしんと何かが体にぶつかり、そのまま何かに抱き竦められる。 抱き締められて2本の手に体中を弄り回わされ、その手が尻の双丘を握って揉みしだき出した段に至ってやっとイルカは我に返った。

「な、なにす、んっ」

 叫んで、思い切り胸を押し体を離そうとしたした瞬間、後ろ頭を片手で掴まれ、もう片方の腕を腰に回されて、唇を塞がれた。 正真正銘、生まれて初めての接吻けだった。 それを男に奪われて、しかもその男は散々イルカを慣れた感じの舌技で翻弄した挙句に耳元で囁いた。

「ね、抱かせて、お願い」

 男は、獣の顔を模した面を横被りにしており、左目の部分だけが欠けていた。 そこからチラチラと瞳が覗く。 赤い瞳? よくは見えないが異様な感じのする瞳と、晒された顔下半分の抜けるような白い肌と、どこか酷薄な印象のする薄い唇が目を奪う。

「なにを言ってっ やめろっ」
「しー」

 男の自分に男に抱かれよなどと言い、尚も接吻けようとする面を着けた顔を必死に押さえ抗うと、欠けた部分から覗く目がじっと自分を捉えた。 やはり赤い。 それに何かの紋様が…。 覚えがあるのはそこまでだった。 中忍に昇格してすぐの、初めての外地任務。 ある部隊に配属されて半月ほど経ち、やっと周囲にも慣れ始めてきた矢先の降って湧いた災難。 川辺で一人、汗を拭って帰ろうとしていた所を見知らぬ暗部の男に拉致されるという、それが海野イルカの否応の無い性初体験に至る幕開けだった。

               ・・・

 イルカは写輪眼を見た事が無かった。 もちろん、書物などで絵や説明は読み知っていたが実物を見たことはなく、それがそんなにも真紅で、そんなにもくっきりと三つ巴の紅蓮の焔を宿し、そんなにも怪しく心を惑わすものだとは知らなかった。
 気がつくと、全裸に剥かれて男が体中を弄り舐め回していた。

「い、いやだぁ」
「あれ、気がついた?」

 抱えられべろべろと舐められていた右足で相手を蹴り付けたつもりだったが、体は重く碌に動かす事ができなかった。 声もどこかもったりとくぐもり、ジェル状の液体にどっぷり浸かり込んででもいるかのように響かない。 頭も重くグラグラと視線も定まらず、やっとのことで回りを見回しても薄ピンク色の膜の中にいるようで、ここがどこかも判らなかった。

「かわいい」

 男は、相変わらず面を着けたままだったが、それは半分頭の方にずれておりすっと通った鼻筋が見えていた。 その口元がイルカの胸を這いまわる。

「あ、あ」
「感じる?」

 違う、感じてるんじゃない、そう言いたかったが、男が乳首を舐めつけ吸い指で捏ね回す度に体は勝手に跳ねた。 そして、どうしようもない熱が若い体の下腹部に溜まり出す。

「かわいいね、なんでもしたげたくなっちゃう」

 くるんと両足を抱え上げられ、男の目の前に全てを晒す恥ずかしい恰好をさせられたかと思うと、彼が徐にイルカ自身を口に含んだ。

「ひっ な、なにするんだ、あ、あ・あ…」

 男が男にそんなことをするなんて、生まれてこの方想像だにしたことがなかったイルカは吃驚し過ぎて抵抗も忘れた。 基、しても何の役にも立たない抵抗だったが、今はそれさえもできないどころか男の顔を両足で挟み込むようにして震え、快感に翻弄された。

「あっ ふ、う、うんっ んんーっ やっ いやーっ」

 為す術無く達かされて、更に搾り取られるように直後のペニスを吸われ、今まで自慰などでは感じたことのなかった高みに登り詰めさせられ、そこから一気に底の見えない深みに突き落とされたような激しい快感を味わった。 のたうち、頭を振り乱し、闇雲に手元を掻き毟って身悶え、泣いた。 それでも男がしつこくイルカから口を離さず舐め続け、若さからか一回吐き出してもすぐに勃起してくるペニスを育て上げようとするので、その頭を手で押し遣って泣いて懇願するしかなかった。

「も、は、離してぇ、やだ、やだぁ」

 太腿の内側が痙攣してぴくぴくと震え、また達く、と思った時彼がイルカの根元を握って射精感を塞き止め、やっと口を離した。

「ほんと、どこもかしこもかわいい。 ここなんか奇麗なピンク色してるよ? アンタ、正真正銘のお初だね」
「ひうっ ううっ」

 ネジの飛んだイルカの頭には意味を為さなかったがとんでもなく恥ずかしい言葉を羅列して、男は何か滑るモノを纏った指をイルカのアナルに捩じ込んできた。 その指が容赦なくグニグニと入り口を解し抜き挿しを繰り返すので、その初めて感じる痛みと排泄感を伴う感触に戦慄き、強張る体がぶるぶると震える。

「ちょっと、力抜いてよ。 これじゃ入らない」
「や…や…」

 ただ頭を振って嫌々を繰り返す事しかできずにいると、彼の溜息とともにまた沈んでいく頭の気配を感じ、イルカは慌ててその銀に光る髪を掴んだ。 腰が無く柔らかな細い銀糸が掌で滑り、掴みどころが無く逃げていくその感触に力が過ぎたのか、頭の動きが一瞬止まると不機嫌な顔が戻ってきた。 いつのまにか面が全て外れていて、その息を呑む様な美しい顔が初めてイルカの目前に露になった。

「痛い」

 イルカが呆然とその素顔に見惚れていると、彼は頬を膨らませ口を尖らせてガシガシと掴まれた辺りを掻いた。 よく見れば、まだ幼さの残る少年の顔だ。 仕草も幼い。 体付きも自分と然して変わらないではないか。 なのにこんなにも実力が違う。 術も、体術も、筋力も。 何一つ敵うものが無い。 それが、彼が自分より遥か上の位階に居る者と、さすがのイルカにも判らせ、怯えさせた。
 
「ごめ…なさ…」
「ねぇアンタさぁ、男に抱かれるの、初めてでしょ?」

 呆然としてうっかり謝ると、幼かった顔がどこか大人びて、片方の口端が釣り上がった左右非対称な笑みが歪にイルカを舐めつける。

「は、はじ…め…て」
「俺さぁ、なんだかすーごく興奮しちゃってんのよ。 アンタかわいいんだもん。 だからさぁ、今日は特別大サービスしちゃいたい心境なわけ。 判る?」
「う」

 訳も判らずイルカはこくこくと頷いた。 そうしなければならないような気持ちにさせられたからだった。

「だからアンタを全部舐めて解して、アンタがクタクタのユルユルになるまで愛撫してあげるよ。 それからゆっくり俺を嵌めて、それをぜーんぶアンタに見せてあげるね。 初めっから終りまでぜーんぶ、初めてのアンタにもよく判るようにさぁ」

 言うなり抱えたイルカの両足を高々と肩に担ぎ上げ、彼はニタリと笑った。 首の後ろと肩だけで自分の体重を支えさせられた恰好は体が窮屈に折り曲がり、苦しさに瞬間ぎゅっと目を瞑ったが、片手が伸びてきて頬を掴み軽く二三度揺すられたので恐る恐る目を開けると、イルカの股の間で笑う男の顔からベロリと長い舌が伸び、イルカのアナルを舐めたのが見えた。

「きたな…から そ…なとこ、汚いっ ひやっ」

 あの美しい顔が自分のそんな所を舐め回しているのかと思うだけで顔が火照った。 だが、軟体動物が入り込んではウネウネと動き回るような感覚に震え、言葉も継げなくなる。 その上、男の指がどうしようもなく体が跳ねる箇所を行き来しながらイルカのペニスを掴んで扱くので、イルカはもう声も抑えられなくなって喘いだ。 女みたいだ、俺、女みたいに喘いでる。 嫌だ、嫌だ、こんなの嫌だっ

「い、いやぁ…あ、ああー」
「ほら、見なくちゃ」

 虚空を虚ろに見つめるイルカの頬を掴み戻しては、男はしていることをイルカに見せた。 イルカは、彼が自分のアナルに唾液を送っては舐め解し、指を挿し入れて広げる様を見た。 そして彼の若々しく張り詰めたペニスが自分のアナルに宛がわれるのを見、それがゆっくり自分の中に埋め込まれていくのを見た。 彼は、イルカの両足の膝裏辺りを掴んで広げ、イルカが見易いように腰が高々と上がった姿勢のまま腰を進めていった。 イルカは、体の折れ曲がった苦しい体勢ながらも食い入るようにその信じられない光景を見た。 体の中を異物が分け入ってくる感覚と、それそのものの視覚的事実が目に映りながらも、まだ信じられなかった。

「あ、あ…嘘、嘘だぁ」
「ほら、アンタの中に入るよ。 痛くないでしょ?」
「入ってく…入ってくる、嫌、嫌だっ あーっ」
「今更なぁに」
「やめ…ろぉ… はうっ ふっ あっ」

 全身から噴き出す冷や汗と痛みに白んでくる意識がまだ納まらない裡に、彼はイルカを突き上げ出した。 自分より少しばかり年嵩らしいが同じ少年の体付きをしている彼は、性に関して何も知らない自分とは一線を隔する手馴れた感があったが、やはりどこか余裕の無い乱暴さでイルカを突き荒らした。 快感とは程遠い痛みと摩擦の衝撃にただ荒く胸を喘がせていたイルカだったが、それでも徐々にアナルが緩んでくると、イルカの両足を抱え上げた最初の姿勢のまま顔から汗を滴らせてイルカを揺する彼の快感に歪む顔や、彼のペニスが自分のアナルを出入りする様に目が行った。 俺は女みたいに男に犯されてるんだ、とやっと状況を受け入れるとともに、ショックが襲ってきた。 もう元の自分には戻れない気がして、死んでしまいたいような気持ちになった。 だが、体の方はいつまでも痛みを感じてばかりいるようにはできていない。 ノルアドレナリンが大量に生産・分泌され、痛覚が鈍化する代わりのようにその他の感覚が鋭敏になる。 心拍数が上がり血管が収縮し血圧が上昇する。 気管支が拡張するので呼吸も荒くなり、ブドウ糖の血中濃度が上がり、瞳孔が開き…、所謂”興奮状態”になってくる。 それをイルカは自分が善がって女のように喘いでいるように感じ、情けなさに益々絶望的になった。 でもどうにもならない。 体はどんどん高まって、今まで体験したことの無い感覚にただ翻弄され、やがてまともに思考することもできなくなっていった。
 徐々に激しくなる注挿。 自分の意思とは無関係に体内で起こる収縮運動。 それに応えるように上がる男の呻き。 その声がまた耳からもイルカを煽って脳を犯す。 なんだろう、この感じ、なんだろう? ああ、ああ、どうにかなっちゃう! 俺、俺…

「あっ ああっ」
「気持ち、い?」
「わ…わかんな、わか…な」
「気持ちいいんだよ。 この感じ、覚えて。 気持ちいいね?」
「わかんないっ」
「いいから、言ってごらん。 ほら、気持ちいいって。 言えばそうなるから」
「い、いやだっ、いや」
「言って」

 初めてのイルカにその感覚が何なのか判る筈もなく、ただ首を振って抗うとまた頬を掴まれ目を覗き込まれ、あの焔がくるくると回っているような感じに囚われ、気がつくとポロリとその言葉が口を吐いて出ていた。

「い…いい」
「うん、気持ちいね」
「いい、気持ち、イ、あ」
「俺も、すげぇ気持ちイイ、最高!」
「あ、あん、イイ」

 言葉にすると、本当にそうなったかのような気がした。 暫し動きを止めてイルカの言葉を待っていた男も、イルカが素直に喘ぎ出すと共にまた律動を再開させた。 緩急をつけてイルカを揺すり、試すようにイルカの中を色々な角度で突き荒らし、何度も達した印を放った。 まだ若い、少し乱暴な、でも溢れんばかりの欲望をぎらぎらとイルカにぶつけてくる、そんなセックスだった。
 イルカはそのようにして男に犯された。 男の腕に抱かれ、その男の男根にアナルを犯されて善がり喘ぎ、同じ少年同士の体を絡み合わせた。 16の夏の終わりだった。
 



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