あなたはわたしのために、わたしはあなたのために


2


「口、開いて 息して」
 カカシは、縛ったイルカの腕の紐を解くと、喰いしばった唇に指を突っ込んで抉じ開けた。 自分の指が喰い千切られるのではないか、と言うような心配は最初の段階で全くの杞憂だと知った。 イルカは、カカシを傷付けるような可能性のあることを一切しなかった。 今もカカシの指を口中に感じると、驚いて力を抜いた。 途端に声が漏れ始める。
「あ、あはっ あ、うん」
「そう、声出して。 息吸って、吐いて、吸って…」
 低い声で言い聞かせるように繰り返せば、イルカは浅くはっはっと呼吸をした。 眉を寄せ、固く瞼を閉じたイルカの頬に、宥めるように手を宛がう。 愛おしさが込み上げてするりと頬から顎にかけてを撫でると、イルカは大きく胸を喘がせながらも薄っすらと目を開けた。 涙をいっぱいに湛えた黒い瞳が自分を見つめ、再びゆっくり閉じるとカカシの手に自分の手を添えてすりすりと頬を擦り付ける。 涙が指をしとどに濡らした。
「イルカ先生」
 無性に接吻けたい衝動に駆られるが、今は堪える。 まだ、半分しか入っていない。
「もう少しだから、力抜いててね」
 微かに頷くのを見てから、イルカの肩を掴んでぐっぐっと体を揺すり上げる。
「あっ あっ いっ ん」
 時間をかけるほうが辛いだろうと、一気に押し入ろうとしたのだが、イルカの後口は固く中は狭かった。 もちろん非常な時間をかけてそこを解した。 イルカを何回も達かせ、何回目かからは前と後ろを同時に攻めながらイルカを泣かせた。 オイルを使い、ぐちぐちと言う濡れた音といつもより甲高いイルカの喘ぎ声を、何分も室内に響かせた。 だがまだそこは狭く、カカシをきつく締め上げる。 イルカの恐怖がそうさせているのか、とできるだけ優しく愛撫を加え、どうにか根元まで突き込むことができた時、顎から滴る汗がイルカの頬に幾つもぽとぽとと落ちた。


               ***


 退院の日、攫うようにイルカを自宅へ連れ帰ったカカシは、その晩の裡にイルカを抱いた。 本当は、名目通り暫らくは介護に徹しようと思っていたのだが、当のイルカから「あの日の約束はまだ有効ですか?」と顔を真っ赤に染めながら俯かれてしまえば、もう我慢するほうが罪と思えた。 この人は、時々本当にどうしてこんなと思うような事を言ったり遣ったりしてくれるんだろう、とカカシは思わず嘆息させられる。
「体、もう大丈夫なんですか? 俺、加減なんかできないですよ。」
 と念を押すと、イルカは首を傾げた。
「俺、女じゃありませんし、多少のことでは壊れません。」
 いや、男だから壊れるんでしょう、と言いそうになるのをぐっと堪える。 余計な事は言わないまま事を進めようと思った。 それに、五年前のあの日、自分に抱かれた経験を覚えているならこんな事は言わないはずだった。 例え抱いてもイルカの記憶そのものが戻る訳ではなく、唯この抱き方には覚えがある、以前にもカカシに抱かれた経験がある、という認識が戻るくらいのものだと覚悟しておいたほうが良さそうだとカカシは思った。 そして、なるべくゆっくり焦らず大切に抱いて、思い出してもらえなくても苛々しないようにと自分に言い聞かせた。
 だが、じっくりとイルカの体中を愛撫し鬱血の跡を散らせ、乳首を思う様味わった後、イルカのモノを口淫しようとした時、またあの本気の逃げ技を炸裂された。
「イルカ先生っ どうしてそんなに逃げるんです? 俺が嫌?」
「そんなっ ち、違います」
 ベッドの上で二人とも半裸で睨み合い、チャクラ全開で肩で息をしているってどうだろう。 ふるふると首を振るイルカの目は涙目で、これでも最高に我慢したんだ、と語っていた。 だがカカシもここで負ける訳にはいかない。 そんなイルカを上目で舐め付け、でも、とさへこんだ様子を醸し出す。
「でも、そんなに逃げられたら俺だって手荒になっちゃうよ。 そんなことしたくない。 ね? イルカ先生、今度逃げたら縛るよ?」
 最後通告のつもりでそう言う。 もちろん本当に縛るつもりはなかった。 ただ、それならとイルカが観念してくれることを期待しただけだったのに、イルカときたらカカシに両腕を揃えておずおずと差し出したのだ。
「縛ってください」
 カカシは鼻血を噴きそうになった。


               ***


「わかる? イルカ先生、全部入ったよ」
 ふぅと息を吐き出しカカシが問えば、イルカははっはっと胸を喘がせながら、ただ細かく何度か顎を引いた。 その唇に吸い寄せられるように体を折ってイルカに覆い被さると、ああっと叫んで仰け反る。 唇には辿り着けず、そのまま晒された喉に喰らい付き、声に誘われるままカカシは体を揺すった。
「う うん んぅ」
「だめだよ、ほら声出さないと」
 頭を掴んで噛んだ唇を舐め解し、緩い律動を繰り返す。 ぎしり、ぎしり、とベッドが鳴き、イルカも切なく鳴き出した。
「ああ うん あ ああ」
 大きく注挿はせず、イルカの体を抱き締めてゆっくり突くだけの運動を長く繰り返していると、何時しかイルカの細い腕がカカシの首に絡んできた。
「カ、カカシさん、ん、あ、カカシさん」
 緩く首を振りながらカカシの頬に自分の頬を擦り付け、組み敷かれたカカシの体の下のイルカの体が切なげに悶えだす。 中も漸く緩んできて、既にカカシ自身を舐めるように顫動していた。 意外と早くイルカの快楽のスイッチが入った事を感じカカシは多少驚いたが、やはり体は覚えているものなのだと納得して本格的な律動を始めることにした。 体を起こし大きく開いたイルカの足を肩の上に担ぎ上げ、待ってましたとばかりに注挿を開始する。 ゆっくり引き、じりじりと挿し込む。 絞られるような感覚が、眩暈がするほど気持ちがいい。
「あっ ああっ ぁん ぁぁぁ」
 部屋に響く甲高い喘ぎ声。
 ああ、声だけで達きそうだ。
 カカシの唾液で淫らに光る尖った乳首に親指の腹を当て、クリクリと転がしながら腰を振ると、イルカは首を何回も左右に打ち振り、眉を切なげに寄せて喘いだ。
「んっ あっ んんっ」
 くりっと押し潰すようにしてから先端に爪を立てると、カカシを受け入れている口がきゅうきゅう締まる。 余りの気持ちよさに、片方を口に含み、片方を指で弄りながらガンガンとイルカの奥を荒く突き上げ、快楽を貪った。 イルカはされるがままに揺さぶられ、突き上げられ、止め処なく切羽詰まった喘ぎを漏らした。
「あっ ああっ んっ んあっ カ、カカシさっ カカ、さんっ」
 限界を訴えるイルカ自身を、徐に掴んで律動に併せ荒く扱く。 手の中でびくびく震えるイルカ自身がはちきれんばかりに膨張し、今にも弾けそうな根元を意地悪く掴んで塞き止めると、更にガンガンと中を荒らしてイルカを鳴かせた。
「ああっ ああ、いやっ ああっ」
 イルカが叫ぶ。
 叫んで体を捩ってシーツを掻き毟る。
 ああ、すごい、なんて艶かしい。
 もっと、もっと乱れて、イルカ先生
 イルカ自身を掴んだまま腰をぐりりとグラインドさせ、イルカの好い所に当たるように浅い所を何回も掻き回してから漸くイルカを解放してやると、イルカは叫びながら、びゅびゅっと白濁を吐き出した。 きゅうっと後ろが締まり、カカシも波に逆らわず自分を解放する。
「うっ …ああ、きもちーっ」
 ぶるっと腰を震わせ、ゆるゆると抜き差ししながら自分の精を全てイルカの中に吐き出した。
 まだ一回目だ。
 出して震えるイルカ自身も容赦なく扱く。 先端からは、とろとろと白い汁が零れ続け、体をがくがくと痙攣させながらイルカは泣いた。
「や、やめて、っねがい、離して、いやぁ」
 のたうつ体に覆い被さって押さえつけ、イルカを扱く手を休めず首に喰らい付く。 若鮎のように跳ねる体を押さえつける行為が征服欲に更に火を点け、益々昂揚していくのが止められなかった。 イルカの体の痙攣と同期してきゅっきゅっと後ろが締まり、カカシ自身もまた硬さを取り戻していく。 びくびくと震えながらまた太く硬く猛っていく自身と共に、カカシの頭も更に沸騰していった。
 もう一回だ。
 もっともっと激しく。
「イルカ」
 欲に塗れた掠れ声でイルカを呼び、絶頂の余韻を揺らめかす顔を隠すように腕を交差させて喘ぐイルカの手首を掴んで左右に開くと、深く深く唇を味わってから力ない体を裏返した。
「あ、あうっ」
 身の内にカカシを受け入れたまま体を返されて呻くイルカ。 その引き締まった小振りな丸い尻の割れ目の間に、自分の太く硬く猛ったモノが突き刺さっているのだ。
 なんて卑猥な。
 カカシはイルカの腰を高く掴みあげると、一回ずるずるとぎりぎりまで引き抜き、今度はずぶずぶとめり込ませた。 そうして、自分のモノがイルカの体を出入りする様をじっくり見た。
 堪らない。
 カカシは我を忘れてイルカを貪ることに没頭した。

「イルカ先生、イルカ、イルカ…」
 後ろから満足するまで突き込み掻きまわすと、イルカの上半身を起こして腰に乗せた。 イルカ自身も既にぷるんと立ち上がって涙を零している。 握り心地の良い竿をねっとりと扱き、濡れた先端を指でぐりぐり抉り陰嚢をわしわしと揉んでやると、イルカはカカシの胸に背を擦り付けるように仰け反って悶えた。
---そうだ、あの時もこんな風に、俺の胸に体を預けて喘いでいた。
「あ、ああ… ん、あ」
 喘ぎ声にも艶が混じり、下から揺すり上げるカカシに合わせて自分からも体を揺すっている。 腿を下から掬い上げ、がつがつと激しく体を上下させてやると、イルカ自身もぶるぶると震え、刺激もされずに達して噴水のように精を吹き上げた。 あのイルカがこれほど淫らに悶え狂う様は壮絶だった。 だから途中イルカがかくりと意識を飛ばしても、もっと悶える姿が見たくて頬を叩いて覚醒させまた犯した。 体を横抱きにして片足だけを肩に担ぎ、直角に交わった時は余りの乱れように完全に理性が飛んでしまい、その後は限界を試すようなセックスをイルカに強いてしまった。
 波打つように腰を動かし横抱きにしたイルカの最奥を存分に突き荒らすと、イルカは泣き叫んで許しを請うた。 そうされると尚一層燃え上がり、萎えたモノを無理に扱いて勃たせ、前と後ろを責めたててイルカを何度も達かせた。 イルカが朦朧としても許さず、胸に着くほど膝を折り曲げ、その快楽に喘ぐ顔を視姦し、卑猥な言葉で辱めながら、真上からガツガツと心ゆくまで貪り、イルカ自身も扱いて顔を白濁で汚してもみた。 自分自身の精とカカシの精と、涙と涎に塗れ放心して喘ぐイルカの顔を見ると、もっともっとめちゃくちゃにしてやりたい衝動が後から後から湧き上がってきて、頭の中が真っ赤に染まる。
---ダメだ、このままじゃ
 欲望に衝き動かされるままにイルカを貪っていた自分を何とか抑え、五年前どんな風に抱いたか記憶を辿る。 そう確か、イルカの感じるポイントを探しながら自分を刻みつけるように奥を突いた。 今目の前のイルカも、奥の奥を抉るように突いてやると、足先を引き攣るように震わせて中のカカシを締め付けてきた。
「ここ、感じるでしょ? ほら、どう?」
「ぅ… ぁぅ、ぅん… やぁ」
 抉りながら問うてみても、イルカは既に小さく喘ぎ声を上げるばかりだった。 
「思い出して、俺を思い出して、イルカ先生」
 奥を何度も突き上げてイルカに言い募る。 イルカは聞こえているだろうか。 生理的な物なのか、イルカの眦からは涙が途切れず零れて黒髪を濡らしていた。
「ここがあんたの感じるイイとこだよ。 俺が見つけた。 ほら、感じて俺を」
「やぅっ ぅん…、ぁぁ」
 イルカは首を振って切なげに嬌声を上げた。
「気持ちいい? 感じる?」
 あの時は、イイと何度も繰り返してカカシに縋り付いてきた。 今も感じているはずだ。 イルカの中はざわざわと顫動し、カカシ自身を舐めるように締め付けている。
「ね? いい? 俺は、好いよすごく」
「ぅん、いい、気持ち、い…、あっ」
 イルカはイイと言った途端、背をきゅうっと撓らせて体を強張らせた。 カカシはすかさず浮いた背を抱き締めて、更に奥を穿った。
「ああっ」
「ああ、俺も達きそう」
 突き出された胸元の飾りを口に含む。
「んぁっ ぁぁ、ぁぁ…」
 撓る背、引き攣る体、上がる嬌声、皆あの時のイルカそのものだった。
 やっと取り戻した、と思った。
 例え思い出してもらえなくても、もういい。
 この人をもう一度捕まえられただけで、この腕に抱けただけでいい。
 カカシはこの五年間の鬱積の発露の如く、箍が外れたように、ただ欲望のままにイルカを一晩中犯し続けた。

     ・・・

 翌朝、隣で死んだように眠るイルカの首筋に鼻先を埋め、愛しい者に朝の挨拶代わりの接吻けを贈ろうとして、カカシはその体の熱さに飛び起きた。 無理もない。 昨夜は散々抱いた挙句に、失神したイルカと共に風呂に入り、自分の吐き出したモノを掻き出しているうちにまた欲情して、そこでも一回交わった。 やっと洗い清めて清潔なシーツに体を横たえさせてやった時は空も白んでいた。 イルカはもうその頃には全くされるがままで、どう扱われても殆ど意識が戻らなかった。
「ああ、しまった…」
 病み上がりだと言うのに。
 頭を抱えてカカシは呻いたが後の祭だ。 取り敢えず氷水とタオルを用意し頚動脈に宛がうと、ぼんやり瞼を開けたイルカと目が会った。
「イルカ先生、大丈夫ですか?」
「…カ……」
 何か言おうとして果たせず、イルカは喉元に手を当てた。
「飲み物持ってきますから、待ってて」
 コップに冷えた水を汲み戻ると、イルカの首の後ろに腕を入れて少し起こしてやる。
---あの時も、こうして水をのませたっけ
 ぼんやり思い出している裡に水を溢れさせてしまい、慌ててタオルでイルカの口元を拭おうとしてふと手を止める。 それからゆっくり屈んで、舌で濡れた箇所を一つ一つ辿った。 五年前もそうしたからだ。 イルカの様子を窺うと、くすぐったそうに首を竦めてカカシの胸元に縋り付いていた。 あの時と同じ。
「もう少し呑む?」
 コクリと頷くのも同じ。 イルカは思い出しただろうか。 そっと口元にコップを宛がい、今度はゆっくり零さぬように傾ける。 イルカはコクリコクリと喉を鳴らしてそれを飲んだ。
「体、平気…な訳ないよね。 ごめんなさい。」
 イルカの熱い頬を撫でながら詫びると、イルカは目を閉じてその手に頬を擦り寄せた。 そしてそのまま、うとうとと眠りに入ろうとするのを慌てて呼び止める。
「イルカ先生、ねぇイルカ先生」
 ぱかっと目を開いたはいいが、まだどこかぼんやりしている顔を上から間近に覗き込んで、カカシは意を決してイルカに問うた。 昨夜は、もう思い出してもらえなくても良いとさえ思ったが、気にしながら放置しておくことはやはりできなかった。
「名前…、俺に名前教えて?」
 遠まわしな問いかけになったのは、自分の逃げ腰の現われだった。
 もし判らないと言われても誤魔化すことができるように。
 だがイルカは、たっぷり数十秒はカカシの顔を無言で凝視することに費やした。
---遠まわし過ぎたか
 トクトクという自分の心音が聞こえる気がした。
 ぽかんとしたその表情を、何を言われているか判らないと言っているように捉えて、カカシは待っていられなくなって先に挫けた。
「い、いいんです、ごめんなさい変なこと聞いて。 眠って」
 言い聞かせるように髪を撫でつけながら囁くと、イルカは声が出るのを確かめるようにウ・ウンっと一回咳払いをしてから、すっと息を吸い込み、はっきりした目でカカシを見た。
「うみの、イルカです。 階級は中忍、所属はアカデミー。」
 イルカが掠れた息のような声で答えた。
「そ…、それは、あの…」
 どう、取ったらいいのだろう?
 イルカは思い出した?
 頭の中が混乱でぐるぐるしていた。
「カカシさん、もう胎蔵大日如来真言、使ってませんか?」
「え? 何?」
 カカシの方が狼狽して思考が追いつかない。 イルカはそんなカカシを、どこか哀しげに見遣って付け足した。
「あなたが最後に使った、あの真言です。 命運が尽きるからできるだけ使わないでくださいって、俺お願いしましたよね?」
「う、うん…」
 言葉が出なかった。
 カカシはイルカの手だけを握って、掛け布団の端に顔を突っ伏した。
 涙がじわりと滲んで、顔を見られたくなくてそのままでいると、イルカの手がそっと髪を撫でてきた。
「……思い出してくれたの?」
「はい。 カカシさん、俺ちゃんとあなたを好きになりました。」
「うん」
 感動でまともに答えられない。
「ずっとあなたが好きでした。 初めて見た時からずっと…」
 顔を上げてイルカを見ると、どこか遠くを見るようにしていた顔をこちらへ向けて、少し赤面した。
「ナルトと一緒に会った時から?」
「いいえ、もっとずっと前。 あなたは知りませんよ、きっと」
「受付でしょ? 一年くらい前? 俺だってずっとあなたのこと探してたんですよ」
 自分がイルカをやっと見つけた時のことを思い出す。 だがイルカは首を振った。
「いいえ、もっと前です。 二年くらい経ってると思います。 俺がただ一方的に遠くからあなたを見たんです。 あなたは昔から有名人でしたから。 でも俺、初めて見た時からあなたが好きでした。 どうしてこんなに好きなのかなって不思議でした。 やっと理由が判りました。」
 イルカはクスリと小さく笑った。
「言ってくれたらよかったのに。 俺、あなたを見つけられなくて、すごく辛かったですよ?」
「だって…、あなたはノーマルなんだって俺ずっと思ってましたもん。 いつも誰かきれいな女の人といましたし」
「そ…、それはですね、イルカ先生」
 イルカが見つからなくて諦めかけていた頃だ、と焦る。 諦めかけていたことは口が裂けても言えないが、言い訳をしなければとカカシはシドロモドロに言い募った。
「俺もあんまりあなたが見つからないから…、えーと、ごめんなさい」
 結局、余計なことを言うよりはとただ謝るだけしかできなかった。
「責めてるんじゃありませんよ。 唯、俺から言うなんてとても考えられませんでした。」
「うん、ごめん」
「ナルトを介してあなたと近しくお付き合いさせてもらえるようになってからは、ずっと緊張してました。 気持ちを知られないようにって、ずっと思ってましたから」
「そう、だったんですか」
「はい」
「あの晩、どうして告白する気になってくれたの?」
「もう還れないと思ったから」
「やっぱり…」
「本当は、還れないなら余計、言っちゃいけないって思ったんですけど、堪らなくなっちゃって」
「うん、そんな感じでしたね」
「カカシさん、怒るし」
「怒ってませんよ? あなたが直ぐに自分を諦めるから、だから」
 カカシが言い澱むとイルカがカカシの手をそっと引っ張ってきたので、顔を覗きこむ。 イルカはどこかしら真剣な顔をしてカカシを見た。
「カカシさんは俺を好きですか?」
「何を今更なこと言うんです。 俺は好きでもない男を一晩中抱く趣味はありません。」
 カカシのあからさまな言いように少し顔を赤らめながらも、イルカは尚も言い募った。
「そう、なんですけど、昨夜あんなにシテおいて今更なんですけど、でもカカシさんほんとに俺でいいのかなって」
「イルカ先生…」
 俯くイルカの顎を取って上向かせる。 頤はまだ熱を持ち、カカシの指を驚かせた。 休ませなければならないと思った。 だがカカシは、身の内に渦巻く衝動に任せてイルカに接吻けた。 イルカの体が一瞬強張り、カカシの胸に縋った手にぎゅっと力が篭ったが、接吻けを深くすると直ぐにくたりと弛緩してされるがままになるイルカが愛おしかった。
「解らないならもう一回抱かれますか?」
 息の上がったイルカの頬を掴み、じっと目を覗き込んで問う。 潤んだ黒い瞳が揺らめいてカカシを見つめた。
「好きです、カカシさん」
 小さな声でぽそりとイルカが言った。
「俺の方がずぅーーーっと好きですから!」
 怒ったようにそう言うと、イルカはへにゃりと顔を崩して幼子のように笑った。




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