酒宴


8


---あ…冷たい…

 冷たくて美味しい。 喉がカラカラだ。 どうしてだろう? ああ、でもなんて美味しい水…

「み、水! うっ」

 飛び起きようとして、背中が引き攣れる様に痛んでまたそのままベッドに沈む。 どうしてこんなに背中が痛いんだろう? 昨日、演習あったっけ? いや、無い。 それに、アカデミーの演習くらいでこんな動けなくなってどうする、俺。

「みずぅ」

 でも喉も体も渇いて乾いて今にも枯れてしまいそうに感じていたイルカは、目の前にぼんやり見えるペットボトルに手を伸ばした。

「はいはい」

 くすくすくす、と隣から含み笑いが聞こえてくる。 誰だっけ? 俺、また飲んでどっかそこら辺で寝ちゃってたのかしら? まーいーや、とにかく…

「水!」
「んー」

 ? と思う間も無く濡れた冷たい唇が自分の唇に当たり、液体が流れ込んできた。

---口移し?

 おいおい、俺ってそんな事されちゃうほど弱ってんのか? いっくら泥酔した時だって、それほどまでに正体無くした事は無かった気がするがしかし! 今はそんな悠長な飲まされ方じゃあ全然足りんのよ!

「貸してっ 自分で…痛…」
「あー、ほらほら」

 もどかしくてペットボトルに手を伸ばせば、そのすぐ目の前に有る物にさえ手を上げただけで体のアチコチが痛むのだ。 これはどう考えてもおかしい。 おかしいが、今は有り難くもそっとボトルを宛がって飲ませてくれる親切な人に甘えて、貪るように水を飲んだ。

「ぷはーっ うまー」
「よかったですね」

 その人が肩を揺すって笑ったので、自分がベッドではなくてその人に抱き起こされてその腕の中で水を飲んでいた事にハタと気付き、そして…

「あ、カカシさん」
「はい」
「…………俺…」
「はい」
「あのー」
「はい、体、大丈夫ですか?」
「…」

 …………ドッカンッ と、自分が噴火したように感じる瞬間てほんとに有るんだなと、一つ経験値を上げたイルカだった。

               ・・・

「恋しい人の、そんなしどけない姿を目の前にして勃起たない男は男じゃありません」

 自分は素っ裸でカカシの腕の中に居た。 水を飲んで体が潤んだ気がして「あー生き返ったー」とジーンとしていたところを、どうしてそんなに喉が渇いたかを思い出させられて硬直したイルカは、カカシがまた不穏な手付きであちこち撫で回して(<愛撫だからソレッ)きたので焦って我に返った。 今って何時なんだろう? アレから一晩経ったのかしら。 確か気を失うほど痛くて、実際に気を失った気が…

「い…嫌です、まだ俺、痛くて、で、できません」

 ふわっと甘い香が漂ってきてギクリと体が竦む。 覚えのある滑った感触を伴った指が尻を撫でてくる。

「い、やだ、できな、カカ、さんっ」

 逃げたくても碌に体が動かなかった。 しかもカカシはそんな自分をひょいと裏返すとベッドにうつ伏せにして背中を押さえつけ、後ろからアナルを犯してくる。

「いうっ」

 いくら滑っているとは言え、指がアナルに差し込まれた途端にピリリと痛みが走って体が震えた。

「うう」
「痛い?」
「痛いに…決まってんだろうっ っっ…」

 思わず体を起こそうとしてまた痛みに沈む。

「ごめんね。 でも、後ろからの方が楽だから」

 何が「でも」だよ。 止めてくれればいいだろうが。

「ほんとは、最初の時もそうすればよかったんだけど、俺どうしてもアナタの顔見たかったんです。 背中、痛いですか?」
「痛い、です」

 そうか、あの無理な姿勢の所為でこんなに背中が痛いのか。

「ごめんなさい。 今度は楽にしててくださいね。」
「あの、止める…っていう選択肢は」
「無いです」

 相変わらずの一刀両断ぶりで機先を制され、パクパクと口が空転している間に、少し休んでいた解す指がまた働き出す。 それがクイとある一点を押すと…

「はぅっ いっ痛ぅぅ」

 体が、自分の制御を離れてポンッと浮き上がるように跳ね、その途端に背中の痛みが襲ってくる。

「ここ、前立腺、感じるでしょ?」
「か…感じ、ませ、んーっ んーっ」

 そうか、ここが前立腺か、とアヤフヤな記憶を手繰る暇も与えられず続け様にそこをクイクイと押され、更にもう片方の手がうつ伏せている自分の股間にベッドの隙間を潜って差し込まれてきて、図らずもイルカは四つん這いになった。

「嘘、感じてますよ、ほら」

 剰え、そんな事を耳元で囁かれ半立ちになったモノを握られては、もう反論も抵抗もできない。

「あん、いや、ちょ、ちょっと、待ってくださいって、あ、ん」
「待てませんよ、俺だってほら」

 もうこんなですからと、解されたアナルに後ろから覚えのあるモノが押し当てられ、腰を両側から掴まれて…

「あ…、あ、あ…」

 ヌクリと入ってきた先端が身を引き裂く痛み。 ズッズズッと押し込まれる圧迫感。 ぶわっと顔から吹き出る汗とともに滴っているのは…これ、俺の唾液か? くぅぅ…信じられん…。 でも痛いからしょうがないんだよぉ、とイルカは思い切り握り締めている手元のシーツの皺さえ涙と目にまで流れ込んでくる汗で滲んで霞んで、「ああ、また失神してしまいたい」と切に願った。

「う、い、うぅ」
「イルカ先生、も、もうちょっと…力、抜いてください」

 後ろからかかる声も掠れている。 カカシも苦しいんだ。 やっぱり俺なんか抱いても気持ちくないんだ。 だったら…

---もう離してくれぇぇ(泣)

「む、り(滝汗)」

 顔で泣いて心でも泣いているイルカは、カカシに協力したいのは山々なのだが如何せん無理なもんは無理だった。 何も知らなかった最初の時より、痛いと判っている今だから物凄く恐くて体が竦んでしまうのだ。 だいたい、どうしてこんな痛い思いまでして男同士でセックスなんかしなきゃならないのか判らない。 いっくら好き同士だからって、互いにリスペクトし合ってるだけじゃあダメなのか? キスとか、扱き合うくらいじゃダメなのか? どうしても合体しないと…だ、だめ…な・の……ううぃでぇぇ〜(泣)

「あっ う、うう〜〜」

 またグイっと突き込まれ、体が強張る。 痛みでまた意識が朦朧とし出す。 こうなったら早く終ってくれ、それだけだぁ〜(泣)と念じてフルフル震えていると、カカシが優しく腰の辺りを擦ってきた。

「と、とにかく…息して…、歯喰い縛んないで」
「う、ふ…ふぅ、ふ、は」
「そう、そんなかんじ」
「はっ はー、ふー、は…、あっ」

 とにかく、協力して早く終らす!と素直に指示に従っているとまた突き込みが来る。 その度に硬直してカカシを締め付け、自分も余計に痛くなる。 一晩寝てしまった所為か、今度は気を失うこともできない。 

「ふぅー、やっぱり全部は入んないなー」

---は? ぜ、全部って…なにが?(汗)

「まだ痛いだけですか?」
「ま…まだも、なにも、無理…ですから。 も、勘弁してくだ、さ」
「だめです」

 全部って…全部ってなんだろう、と考えたら恐いことが頭の中でぐるぐる回り、「これ以上?」とか「まだ?」とかこの先長いぞみたいな言葉に恐怖して、力を振り絞ってやっと切れ々々懇願したこちらの言葉は敢え無く却下された。

「今晩は寝かせませんから」
「こ…今晩て、今、朝じゃ」
「なに言ってるんです、アナタが気失ってたのはほんの5分くらいですよ」
「うそ」

 信じられなくて、痛いのを我慢して顔を捩向けカカシを斜に見上げれば、熱い掌で頬を掴まれ乱暴な接吻けで迎えられた。 姿勢の苦しさも然ることながら、それ以上突き込むことは諦めたらしいカカシが腰を振り始めて、イルカはまた痛みと振動で訳が判らなくなった。

「あ、は、あ、あ、んー」

 これは…悲鳴、だろうか。 俺の…喘ぎ声か? 痛くて堪らないのに喘ぐなんておかしい。

「ん、んん、ふ、うん」
「イルカ」

 時折耳に届く、自分を呼び捨てる掠れた声。 低い、耳に心地のよいあの声が、吐息混じりに自分を呼ぶ。 何回も。

---欲情してる、この人、ほんとに俺に欲情してるんだ…

 好くないだろうに、こんな硬くて色気も何も無い体。 でも、熱い手がそんな自分の体を這い回る度にまた思い知らされる。 ただ突っ込んで出すだけじゃ治まらない、欲しい欲しい、全てが欲しいと迸るカカシの想い。 こんなにも俺のこと欲してくれてたんだなぁ…


 こんな俺に勃起するだけで尊敬に値するのにと、カカシとともに揺れながらイルカは喘ぎ続けた。 そんな気持ちの変化が体を少しだけ緩ませたのか、もういい加減力尽きて体からも力が抜けたのか、気がつけば己が太刀は柔らかな鞘の内に全て飲み込まれ、端から誂えて作られた対の道具のようにぴったりと嵌り、あたかも元々一つだったのだと言わんばかりに合体しているではないか! 狂喜する上忍の箍は完全に外れた。 イルカ、ピーンチ!





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