月の輝く夜に [番外]
- Clair de Lune -
5
- 傷 -
イルカは傷が少ない。 細かな物や消えかかった物は無数にある。 要するに、いずれ消えてゆくような軽い傷だ。 だが痕が残るような大きな傷は数えるほどだ。 イルカを裸に剥いた最初の時、あまりに奇麗な身体をしているので驚いたものだ。 背中の一際大きな傷と鼻の傷を入れても片手に余った。
「イルカ先生、傷少ないですねぇ」
「はは、俺、臆病者なんで用心深いんですよ」
イルカはそう言って笑ったが、忍の職にあって用心深いで済むような訳がないことは重々承知している。 内勤だから、と言うのも理由にならない。 否、寧ろアカデミーの教師という職は、何を遣らかすか予想が付かない”子供”という生き物を相手にしているから、返って生傷が絶えないと聞く。 それに以前はこの人も戦忍だったのだ。
先日、アカデミーで偶然、イルカが術を失敗した子供を庇うシーンに出くわした。 発動した術の力が自分の想像を越えていたのだろう、その子は勢いよく後ろに吹き飛び危うく岩盤に激突するところだったのを、イルカに助けられたのだ。 イルカはまず子供を抱き込み器用に空中で向きを変えて子供の身体が岩盤に向かないように庇うと、自分の背中にチャクラのクッションを作り出し岩盤との激突の衝撃を相殺していた。 その間僅か数秒。
---なるほど、あれでは大怪我はすまい
チャクラ・コントロールの巧みさが尋常ではないのだ。 しかもさり気ない。
「俺、チャクラの総量が少ないから、うまく使わないと何にもできないし」
やはりそう言って笑うイルカ。 だがそうすると、あの背中の傷はどうして付いたのだろうと不思議になった。 聞けばナルトを背中で庇ったらしいが、あれくらいチャクラ・コントロールが上手ければ、素手で風間手裏剣を叩き落とすくらい訳はないはずだ。
「俺が未熟だからです」
あの時は咄嗟でそれしかできなかったと力なく笑う。 それなら何故、脊髄損傷して下半身麻痺になるくらいの怪我を負いながら、こうして無事でいられるのか。 器用に致命傷は避けられるのに、どうして背中で受けなければならなかったのか?
・・・
一つ思いついた節があって、ネジに頼んで内緒でイルカの身体を”見て”もらった。 写輪眼は、幻術の類を見破る事や動体視力にかけては人に譲らない自信があるが、さすがに体内のことは見えない。
「うーん、何か有る事は有るみたいですね。 腹の辺りに何か咒が…、いやアレは陣かな」
「そっか、ありがとね。」
あとこれは他人には内密に、と釘を刺し礼を言う。 なるほど、陣か。 そう言えばあの人は結界のエキスパートだったな、と思い出した。
「イルカ先生、あんた腹に陣、書いてるでしょ?」
その夜、閨でイルカを組み敷き自身を穿ってから、イルカの鳩尾あたりを撫でながらそう問うと、イルカは泣きそうな顔をした。
「そんな…のは… あ、あっ」
誤魔化そうとする口を暫らく律動で封じ、ついでに自分の欲望も満足させる。 だがイルカの前は固く握って達かせなかった。
「は、離して、カカシさん、…ねがい」
「ネジに見てもらったんですよ。 確かです。 ほら、サッサと吐く。」
イルカの内部は、達けない苦しさにかザワザワと顫動し、きゅうきゅうと自分を締め付けては食むように蠢いた。 おかげで直ぐに力を取り戻す。 前より硬くなったかのように滾る自身を更に深く穿ち、イルカの弱い奥の奥に先端を当ててグリグリと突くと、イルカは見も世も無く悶え喘いだ。
「あ、あはっ う、んん」
「ああ、きもちー」
「カ…さん、そこ、やめ…、あ、やぁ、ああっ」
「もういいよ、すっごい気持ちいし、このまま一晩中突いててあげる」
「いやーっ」
イルカは泣いた。 片手に握ったイルカ自身もブルブルと震えて涙していた。 中も絶え間なく蠢き締め付け、イルカの過ぎた快感を伝えてくる。 そうして程なくイルカは降参したが、2回目の欲望を放つまでその身体を堪能し、イルカを鳴かせ続けた。
「ち、中忍に、なったばかりの、任務で…、どうしても必要で、書いたんです。」
イルカは啜り泣きながら話した。 泣くイルカの身体を後ろから抱き込み、髪を撫で、項に時折接吻けながら話を聞く。 自身はまだイルカに収めたままだった。
「そういうのは、一回書いたら消せないでしょうに」
「そ… 言われ、ましたけど、使わなければ、い、いいからって」
「ほら、もう泣かないで」
ごめんね、と髪を梳き頬を撫でると、イルカはその手にスリっと頬を摺り寄せた。 かわいい。 愛おしい。 でも苛めたくなっちゃうんだよなぁ、と溜息を吐く。
「アオイ君やイサヤ君との任務の時も、それ使ったんでしょ?」
「はい」
「先日の大災害の時も、大門でアナタ、陣も無しに結界を作り上げたってイサヤ君達言ってましたけど、アレもそうだったの?」
「はい」
「もう、イルカ先生たら…」
あなたは怖い人だ、と思わず呟くと、イルカはまた一頻り啜り泣いた。
「ごめん、怖いって悪い意味じゃなくって、あなた、そんな風に直ぐに俺を置いてっちゃいそうだなって…」
「そ、そんなこと!」
驚いて振り向こうとして果たせず、イルカは敏感に背を撓らせた。 中に入ったままの自分がまた力を取り戻しつつあった。
「ナルトの時は? どうだったんです?」
緩く抜き挿しをしながら問うと、イルカは手元のシーツを握って皺を作った。
「あ、あの時は…」
だがそこで言葉に詰まるイルカの顔を後ろから見て考える。
「イルカ先生、ナルトの九尾の封印が弱まっている事は承知しています。 俺を誰だと思ってるの?」
「カカシさん…」
イルカはやっと身体の力を抜いた。
あの時、ナルトは興奮していたとイルカは話し出した。 怒りに九尾のチャクラが漏れ出してきていて、その膨張率が恐ろしかった、と。 咄嗟に結界を張った。 それは外からの、つまりミズキからの攻撃を跳ね返すためのものではなく、中の九尾のチャクラを外へ漏らさぬための、抑え込むためのものだった。 両手両足を陣の支えに使ってしまい、喩え片腕でも他の事に使えなかった。 だが、巨大な風間手裏剣の風切音は充分聞こえていたので、背中で受ける方向や場所はある程度調節できもしたし、筋肉を緊張させるタイミングも計れたと言う。
「でも、やっぱり衝撃を殺しきる事はできなくて、出血が酷かったし、俺、意識が朦朧としてきちゃって」
「そう…」
そこまで一気に話してくれたイルカに思わず聞き入り忘れていた注挿を、ゆっくり再開させながらカカシは請うた。 最も恐れている事を。
「ね、イルカ先生」
「あ、はい、うん」
「こないだみたいな、八門を開かなきゃいけないような結界は、もう使わないでね」
「で、できる…だけ、善処、しま… あ、う、んん」
「できるだけじゃダメ。 絶対やらないって、今誓って」
「はっ ああっ」
「誓ってっ」
もう言葉が紡げず、コクコクと細かく頷くイルカの項に顔を埋め、その汗ばんだ首筋に接吻けて、腰を動かす。 もう言葉は要らない。 唯ゆっくりとこの身体を味わうだけ。
「他には無いでしょうね?」
事後にクッタリしたイルカに問うと、吃驚したようにフルフルとかぶりを何回も振った。
***
カカシと付き合うようになって直ぐに、実はもう一つ咒を書いた。 それは結界陣に比べてとても小さかったので、さすがのネジにも見えなかったらしい。 よかった、とイルカは心から胸を撫で下ろした。 その咒は、起爆札に書くものと同様のものだった。 結界陣のある鳩尾の少し上、丁度心臓の真裏辺りにある。 ”写輪眼のカカシ”と呼ばれる上忍、木の葉にとって代え難い一人の忍のモノになると決めた時の、それは自分の覚悟だった。
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