月の輝く夜に
- Clair de Lune -
1
「イルカ先生、イルカ先生」
その夜は満月だったが、それにしても何時に無く月光の眩い夜だった。 イルカは眠れずに窓辺で月明かりを浴びて外を見ていた。 そんな夜、カカシがいつものように、二階建ての古アパートのイルカの寝室の窓の外の大木に現れてイルカを呼んだ。
「ちょっと外に出てみませんか。 月がすごく明るい。」
イルカは、今自分の胸の内の大部分を占めるその上忍の顔をぼーっと眺めた。 初めて会った時からどうしようもなく惹かれて、唯々好きで仕方のない人。 そんな自分の想いを決して表に現さず、ひたすら恋偲んできた人だった。
カカシは、イルカのちょっと不安そうな顔をみて首を傾げた。 いつもなら、やれ玄関から入れだの、他人の家の寝室を勝手に覗くなだの、口うるさく言われるのだが、今宵のイルカは心なしか青褪めてカカシを見てもぼんやりと反応が鈍い。
---顔の蒼いのは月光の所為、ぼーっとしているのは眠い所為かな?
それともどこか具合でも悪いのだろうか。
月明かりに輝く木の葉の里をふたりで高台から眺めようと思っていた。 里は今夜、今まで見たこともないような夜景になっている。 夜景と言うより昼のようだった。
「具合がわるいの? そっちに行ってもいい?」
カカシが小首を傾げて少し心配そうにする段に至って、やっとイルカは口を利いた。
「いえ、俺も外に出ますので、表に回ってくれませんか。」
少し声が震えている。 何か心配事でもあるのか。 カカシはひとつ頷いて木からヒラリと飛び降りた。
程なくやって来たイルカは、しっかり忍服とベストを着込み、幾つか装備まで整えて出てきた。 手には何か携帯小型ラジオのようなものまで持っている。 カカシは緊張を覚えて辺りの気配を探ったが、これと言って危険は何も感じなかった。 否、いつも以上に静かで何もかもが息を潜めているかのような夜だ。 階段の中腹で足を止めてしまったイルカが、じっとこちらを見下ろしている。 明るい月明かりの中、イルカの漆黒の髪が陰影を濃くしてその顔に翳りを落とし、引き結んだ口元ととすっと通った鼻筋、伏せた睫を纏った黒瞳を持つ顔を、いつもより掘り深く見せていた。
---きれいだな
暗部を退いて数年ぶりに会った日からずっと、目はその頭頂部で一括りにされた揺れる黒髪を追い、耳はその柔らかな声音にすませられている。 自分は何年もその姿も声も忘れたことなどなかったのだが、イルカは違うようだった。 その事については覚悟していたつもりだったが、やはりショックだった。
・・・
イルカとは19の夏に会った。 イルカの上忍昇級試験の試験管を自分がやったのだ。 互いに名前さえも明かさなかったのだが、その時の事は昨日の事のように思い出せる。 イルカが自分を覚えていない事情も充分すぎるくらい判っている。 自分の所為なのだ。 自分がイルカから名前を聞きだそうとしたばかりに、イルカは逆にその時のカカシに関する記憶を封じられてしまった。 そうなるように暗示を掛けられていたのだった。 それは、火影がある者に頼んでイルカの素性を守ろうとした結果だったが、カカシはその当時はさして重く考えてはいなかった。 試験の直後に既に決まっていた任務に赴き、還れたのは半年後だったが、その時も全く焦りはなかった。 直ぐにでも見つけられると信じていたからだ。 だが、イルカは見つからなかった。
当時の自分は若く、恐れを知らぬ愚か者で、恋愛などまともにした事もなかった。 かけがえのない相手を得、それを失う恐怖とか、こちらの想いが相手に通じないのではという怯えとか、そんな事も経験がなく、ましてやこれから始まると信じて疑わなかったものが最初から手の中から消えてしまうなど、思いもよらなかった。 だがそれでもその時は、見つけ出しさえすればどうにかなる、と思っていた。
そうは言ってもカカシは自分の立ち位置というものは承知していたので、不用意に彼を探し回るような愚だけは犯さなかったが、その分時間がかかった。 車輪眼のカカシが探している、と言うだけで注目を浴びてしまうのが目に見えていたから、名前も所属も判らないからと言って、こうこうこういう中忍を知らないかと聞いて歩く事は憚られ、目だけで探さねばならなかったのだ。 カカシはイルカを何年にも渡って探し続けた。 知っているのは容姿と階級くらい。 三代目火影に聞いても最初から惚けられる。 任務は容赦なく遣ってくる。 里に居る事のできる短い時間だけを探索に費やしても、埒が明かなかった。 カカシの事を忘れてしまうイルカに、自分が必ず探し出して会いに行くと約束した事だけが、カカシのイルカへの気持ちを繋いでいた。 だが、狭い里のこと、当初それ程苦労するとは思わなかった探索行が、一年経ち二年経ち、徐々に諦める気持ちに傾いてくると、カカシもそれなりに女と恋愛をした。 終の相手を求めるという訳ではなかったのでその付き合いは短く多くなり、自然その恋愛遍歴で浮名も流れた。 心のどこかでずっとイルカの面影を求めているのだ。 どんな女と付き合っても、結局自分の目は他を向いてしまう。 それを相手が敏感に感じ取り、長続きはしなかった。 あの時イルカと約束をした「口説き方を勉強しておく」という宿題だけが、皮肉なことに達成されていった。
それが四年程経ったある日、受付の椅子のひとつにちょんと座っているイルカを見つけた時の気持ちを、何と言い表したらよいだろう。 カカシは狼狽して一緒にいたアスマに気取られ、アスマにだけは事情を話さざるを得なくなったほどだった。 そして、直ぐにでも再会を果たしイルカをモノにしようと勇むのをアスマに止められ、更に半年ほど唯目の前にイルカを吊るされたまま、カカシは待った。 普通に自然に対面し、無理なく距離を詰めるように、と。 その間、少しづつイルカの事を知っていった。 イルカはカカシにとっては全くの盲点と言っていいアカデミーに居た。 初めて会った時は、あの熱い体と真面目そうな性格と初心でかわいい仕草と、たったそれだけでもカカシはイルカの虜になってしまったのだが、半年程かけてゆっくり彼の生い立ちや人となりなどを知るに付け、人間的にもイルカという男に惚れていった。 そうして、ナルト達下人候補生を介し、上忍師としてやっとイルカと再会を果たすことができた頃には、一人の男として一人の人間として、終の相手としてイルカを望むようになっていたのだった。
・・・
イルカに「初めまして」と挨拶をされて、ショックで一瞬眩暈さえ覚えた時のことを思い出し、カカシは溜息を吐いた。 判っている。 仕方ない。 判ってはいたが、もしかして会った途端に思い出してくれるのではないかという、甘い期待を抱いていなかったかというと、それも嘘なのだ。 期待していた。 そして直ぐにでもまた、恋人同士と呼べる関係になれるのではと、望んでいたのだ。 だがイルカは、そればかりかあからさまにカカシから距離を取った。 カカシはそれを感じ、胸の内で膨らませていた期待を萎ませるだけでなく、すっかり自信をなくしてイルカに対して臆病になってしまった。 なまじ回数だけは豊富になった恋愛経験が、皮肉にもカカシを怯えさせていた。 今では自分から触れることもできないでいる。 「強姦してでも思い出させる」と言ったあの日の朝。 イルカはできれば強姦は止めてほしいと言った。 例え記憶がなくなっても、自分は必ずまたカカシを好きになるから、と断言したのだ。 今やカカシはその言葉を信じ、唯待っている。
一目見て解るイルカの忍としての実力は中の並。 五年前のあの時と然して変わっていなかった。 中忍として抜きん出ている訳でもないが、落ちこぼれでも無い。 博識ぶりは相変わらずで、アカデミーで教鞭を取っているだけあって更に知識量は膨れ上がっており、カカシも舌を巻くほどだった。 だが、術式を知っていてもそれを発動できない。 チャクラの絶対量が足りないのだ。 チャクラの質や量は生まれつきの資質に左右されるもので、鍛錬によってどうこうなるものではないから仕方のないことだが、もし彼に膨大なチャクラが備わっていたらとっくに上忍だろう。 否、チャクラが少ないからこそそれを補うために知識と技術で武装したのか。 少ないチャクラでも発動できる術と忍具や罠を組み合わせることにより幾多の苦難を潜り抜け、中忍同士のチームワークで上忍とも遜色なく渡り合ってきたらしい。 昇級試験の時、カカシをあれほど悩ませ追い詰めた真言は、周囲からの情報を探ってみても噂も聞かなかった。 あの時も、忍としては邪道だと思っている節が覗えたから、なるべく遣わないようにしているのかもしれなかった。 言い換えれば、遣わずともやって来れた、という事か。 それだけあの試験の時の自分との闘いは特別だったのだ、とカカシは思いたかった。 自分がイルカにとって例え一時でも特別だったのだという認識は、僅かでも自分がイルカの側近くに居ることを許す言い訳として、カカシに縋らせるに充分な事柄だった。 いつかイルカがあの時の事を思い出してくれるかもしれない、と大事に大事に宝物のように仕舞っておくべき唯一の事柄だった。
「カカシさん」
下りてきたイルカがカカシを見上げ、何時に無く陶然とした様子で手を伸ばしてきたので驚いた。 自分はどうもぼうっとしていたらしい。
「きれいですね…」
何がだろう?
固まったままカカシは自分の髪先に伸ばされるイルカの手を握ろうか止めようか、ドキドキしながら迷っていた。 手を取って、その指先に恭しく接吻けたかった。
「髪が白銀に輝いて…、すごく奇麗です。」
その手は、触れる直前で引き返した。
---あー残念。
イルカは結局触れないまま、何時も通りカカシから距離を取った。 迷っていた自分を罵りながらカカシはだが動けなかった自分も可愛かった。 今まで他人に対してこんな気持ちになったことがあったろうか。 自分はずっと待っている。
「高台に上りましょう。」
ふいと視線を逸らしたイルカが先に立って歩き出した。
***
イルカは緊張していた。 事のあらましは凡そ自分の想像通りだと思う。 これから火影の元に赴き、天文気象の専門家に意見を請えば明らかになるだろう。 否、もう既に中枢では事実が解明されて、対策さえ講じられているかもしれない。 そうあって欲しい。 だがその前に、カカシと木の葉の里を一望できる高台に立ち、最後の確認をカカシとしたかった。 自分の緊張が伝わったのか、カカシは先程からずっと黙ってイルカの後をついて歩いていた。 正直有り難かった。 イルカは今、一大決心をしようと必死だったから。
---さっきのカカシさん、奇麗だったな。
装備を整え、衛星放送を拾える機能のあるラジオを抱えて出てくると、階段の上からカカシが見えた。 明るい月光を浴びたカカシは、髪も顔もきらきらと白銀に輝いていた。 元々容姿の優れた男。 顔も均整の取れた体も隙の無い雰囲気も、全てが美しい豹のようだった。 世の中にこんなに美しい人間がいるのだな、とイルカは感動したものだ。 その上、忍としてこの上なく優れた才をも持ち合わせている。 天は二物も三物もお与えになるのだ。 更に写輪眼も得た。 それが彼の人生にとって幸か不幸かはイルカには解らないことだけれども。
そして、自分は面食いなのか、それとも忍の才に恵まれた男に対する憧れからなのか、イルカはカカシに会って直ぐにカカシに恋をした。 会ったら会っただけ好きになった。 訳も判らずどんどん惹かれていく自分を止められなかった。 そうして自分の想いを自覚すると、そうっと誰にも気づかれぬようにその想いに蓋をした。 特にカカシ本人には、決して知られてはならないと、固く自分を戒めた。 カカシは、華やかな恋愛遍歴の絶えない類の人種で、イルカはというと全く自分に自信のない人種だったから。
だが今、早足で歩きながら、里を一望できる高台へと続く道すがらイルカはずっとひとつの事を考えていた。
今夜がカカシと会える最後の時かもしれない。
そう思うと、今まで決して口にしようとは思わなかった自分のカカシへの気持ちを、無性に伝えたくなった。 もちろん、儚くなってしまう身ならば尚のこと、そのような未練を残す言葉を言うべきではない。 そう洟から選択肢からは外されていたはずのその衝動を、今は抑えられない。 何故だろう。 あなたがずっと好きでした、と一言伝えたくて堪らない。 何故だろう。 自分の気持ちを知ってもらう事に何か意味があるだろうか。 この先、カカシの人生と交わることなど有り得ない。 今だけ、ほんの少しの間の奇跡が自分とカカシとの接点を持たせてくれているがそれも友人としてで、また直ぐ離れてしまうだろう。 友人としてでも有り得ないのに、まして恋人としてなど考えられない。 カカシはノーマルな嗜好の持ち主で、浮名を流すほど引く手数多だった。
---今夜生き残ったとしても、離れていく事に変わりないんだ
イルカは頭を振って衝動を追い払おうとした。 里の大事という時に、なんて不謹慎な。
やめろ。
やめろやめろやめろ…。
「イルカ先生」
いきなり後から二の腕を掴まれて、イルカはギクリと体を揺らして振り向いた。 触れられたのは初めてのはずだったが、何故かどこか懐かしくデジャヴを覚え、イルカは呆然とカカシを見上げた。 その反応に些か驚いた風のカカシを前にしても、何も言い訳もできずに強張ったまま只その顔を見上げていると、カカシの方がにこりと微笑んで腕を離した。
「もうこの辺でいいんじゃないですか? ほら、ここからでも十分木の葉の里が一望できます。 余り時間も無いようだし。」
「え…? 時間?」
イルカの方が驚いて、喘ぐようにカカシに聞き返した。
「この異常月照が始まってから多分一時間くらい経ちます。 あなたの家を尋ねる口実を考えていた時、急に外が明るくなったから。」
「口実?」
僅かに見上げる位置にあるカカシの顔が、優しげに微笑んでイルカを見下ろす。 自分の顔は多分強張っているだろう。 カカシの言葉を鸚鵡返しすることしかできないでいる自分は、さぞやマヌケだろう。 動悸が上がって、呼吸数も増えている。 頭の中では、カカシに対する気持ちが膨れ上がってぐるぐる回っていた。
「あと四・五時間てところかな。 大丈夫、策はあります。」
「?」
「俺も思い出しましたよ。 イルカ先生に借りた本の中の小説。」
「……ああ」
イルカは長く息を吐き出し、自分の勘違い加減を恥じた。 もう少しでバカなことを言いそうになってしまった。 カカシはこの異常月照の事を考えている。 そして里を守る事を。
だが、カカシが全てを把握していることを知って少し落ち着きも戻ってきた。 やはりこれから来る異常事態に緊張していたのだろうか。 バカみたいにカカシに告白するかしないかで頭がいっぱいだったが、吊橋効果ってやつかな、と自分の場違いな思考を自嘲すると共に、少し残念な気持ちにもなった。 今夜を逃したら、決して自分の気持ちを伝える事などできないだろう。
「あの本、カカシさんの所でしたか。」
「ええ、借りっぱなしですみません。 『無常の月』でしたっけ? 作者、なんて言ったかな?」
「ラリィ・ニーヴンです。」
「そう、それそれ!」
にこにこと嬉しそうに笑うカカシを見て、少し緊張感無さ過ぎじゃないかなぁ、と思いながらも「やっぱりこの人が好きだ」と胸にジワリと想いがこみ上げてくる。 カカシに掴まれた腕がじんじん痛む。 カカシとの間で持った初めての接触。 自分は何時も一歩以上の距離をこの人との間に取っていた。 好きだから。 好きだから、近づけなかった。 好きです、と言いたい。 イルカは切なくて泣きたくなった。
「ほら、ここからも見えますよ、五茫星」
里の家々が異常に明るい月光に真昼のように照らされている。 大門から真っ直ぐ伸びた大通りの行き着く先にアカデミーを含む里の本部があり、そこから放射状に幾つか道が広がっているのが何時もなら街灯に縁取られ浮き出て見えるのだが、今夜は明るすぎてそれも叶わない。 けれど気をつけて見れば、それらの道々はまた行き着く先で交わり、巨大な星型を形作っているのが解った。 空では疎らにある雲が先程より幾分速く流れ、月の前をさっと過ぎる度にくっきりとした黒い影を街並みの上を這うように通過させている。 星はひとつも見えず、薄明るい空に月のみが無常に輝いていた。
「アレね、何年か前に何とか言う忍が見つけた初代様の遺産らしいんですよ。 ほとんど街に埋もれかかっていたのを見つけて整備し直して、その人が改良を加えて今の結界陣にしたと言うことです。 木の葉の里全体を守れます。 大丈夫ですよ。」
イルカは呆然とカカシを見上げた。 何故、それを知っている?
「俺もね、柱の一人なんですよ。」
「え? カカシさんが? あの五人の内の一人なんですか?」
「そう。 五人て、よく知ってますね。 さすがイルカ先生。」
これ結構機密事項なんですけどね、と里を見下ろすカカシの横顔は弥増す月光に白く光っていた。 そう、機密事項だ。 そうか、カカシは柱の任を引き継いでいたのか。 確か数年前に柱の一人が死んだのだった、と思い出す。
「直ぐに召集がかかるでしょう。 ま、気が付いていればの話だけど。」
と言ってふふっと笑う。 そうですね、とイルカも少し微笑もうとしたが、やはり頬の辺りが少し引き攣っただけに終わった。
「俺達中忍にも召集、かかります。 多分、住民の避難誘導組と障壁付近に配置される組とに分けられて」
「障壁に配置?」
急に険しい顔つきをして、カカシが鸚鵡返した。
「ええ、そう決まっています。 障壁の五つのアンカーはやはり上忍の方々が支えますが、その間の障壁部分にも幾つか結界を抑える小さなアンカーがあって、中忍が何人か一組で当たることになっているはずです。 俺は…」
「あなたは」
カカシの声がイルカの言葉に被るように遮った。
「あなたはアカデミーの教師だ。 子供達の非難をさせなくちゃ…」
イルカはそれ以上 話せなくなった。 カカシが食い入るように自分を見つめる。
「障壁組ではないですよね?」
質問ではなく確認を取るかのように問い詰めるカカシの目が縋るようで、イルカは呆気に取られながらもこくこくと頷いた。
「よかった…」
心底ほっとしたように眉尻を下げるカカシに後ろめたい気持ちを抱きつつ、嘘ではない、と内心で言い訳をする。 自分はどちらでもなかった。
その時、召集を告げる式鳥がぴーと高く鳴きながら空を過ぎった。 よく見ると里中に鳥が飛び交っている。 こんな光景は見たことがなかった。
「やっぱり気付いてたか」
カカシは溜息混じりに呟くと、イルカに向き直って一歩間を詰めた。 それにイルカが思わずびくりとして同じだけ後ずさると、見えている右眉を哀しそうに下げて出そうとした手を空中で止めたまま苦笑を漏らす。
「そのラジオ、お借りしてもいいですか?」
「え? ……ああ、はい、どうぞ」
「衛星チューナ付きですよね。 他の柱に説明する時に使わせてもらいます。」
カカシは言いながら、差し出すイルカの手に乗っているラジオを上からそっと掴んだ。 そのイルカの手に触れないように気を使う様がツキンと胸を痛くして、イルカは寂しさと哀しさを感じて自嘲した。
自業自得。
「じゃ、行きましょうか。」
ラジオをポーチにしまうと、くるっと踵を返して本部へ向かおうとするカカシの背を、イルカは切なく見遣った。 最後の背中かもしれない。
「俺はまだちょっと確かめたい事があるので」
「え?」
五・六歩離れたところでカカシが足を止めて振り返る。
「もう少し上ってから、後から行きますから」
ここで、と言ってなけなしの笑顔を作る。 やはり何も言うことはできなかった。 諦めがつくと何処か肩の力も抜け、これからやらなければならない事に気も向き、カカシに対する気負いも解けた。 とにかく今は、結界陣で気になっていた箇所の確認をしなければ。 カカシとは後で本部に行けばまた会えるだろう。 もう話す時間などお互い無いかもしれないけれど。
ふと見ると、カカシは腕組みをしてじっと先程の場所に立ったままこちらを見つめていた。
「カカシさん?」
「まったく、ひとりですっきりした顔しちゃって」
「は?」
カカシは何事かぶつぶつ呟きながら、ズカズカとイルカの所まで戻ってきた。 吃驚して二・三歩後退したが、あっと言う間に間合いを詰められ、むんずと両腕を掴まれる。
「あなた、俺に何か言うことあるでしょ。」
え?
心臓が口から飛び出そう、とはこの事だ。
吃驚しすぎて言葉が出ない。
「俺に言いたいこと、あったんでしょ。 なんで諦めちゃうの?」
「カ…カカシさんっ」
腕がぎりぎりと痛かった。
上体を屈め、イルカの顔を覗きこむようにして言い募るカカシの顔が余りにも近く、眩暈がしてくる。
「人が柄にもなく紳士に待ってれば、ひとりでグルグルしてひとりでけりつけちゃって」
「カカシさん、何言って…、離してください。 腕、痛い」
「離さないっ」
何時にない強い語調にぎょっと瞠目すれば、そこにはぎゅっと眉を寄せたカカシの辛そうな顔があった。
「今度は離さないよ。 離したらあんた逃げちゃうでしょ。」
「に、逃げるって、そんなこ…とは…」
「今までずっと逃げてばかりいたじゃないっ 俺の気持ち知ってて!」
「きもち? ……あなたの、気持ち?」
今度こそあんぐり口を開け、抗うのを忘れてイルカは目を見開きカカシを凝視した。
***
鈍いっ 鈍すぎる!
ぽかんと口を開けたまま自分を見つめるイルカの顔を見下ろしてカカシは嘆息した。
イルカの思考はイルカ自身の中で閉じている。 その思いやりのほとんどが他者に向いているにも関わらず、その思考回路は他者からの想いを受け取らない。 最初は解っていて拒否されているのかと思っていたが、どうも拒否ではないらしい。 この反応は…
カカシは、高台への道をイルカの後を付いて歩きながら、いつもと違うイルカの態度の原因について考えた。 そして唐突に思い出したのだった。 自分でも気にはなっていたからかもしれない。 この月は明るすぎる。 月照が通常より明るいということは、太陽が通常より光っているということだ。 確かイルカから借りた本に、そんな小説があった。 それでか。
知識があり過ぎるというのも不幸なものだ、とカカシは思った。 今、木の葉で惰眠を貪っている者達の九割以上は何も知らない。 知らなければ、例えこのまま異常気象に命を落とそうとも、一瞬の恐怖だけで終わるのだ。 だが、イルカは今その恐怖と対策に心を埋め尽くされているのだろう。 中忍一人ではどうにもならない現実に、自己嫌悪しているのかもしれない。 もしそうなら、対策はあると、大丈夫だと、早くイルカを安心させてやりたくなってカカシは坂の途中でイルカを呼び止めた。
「イルカ先生」
名前を呼んでも気付かないイルカ。 自分以外の事象で頭がいっぱいのイルカ。 自分はこんな時でさえ、イルカのことが何より大事なのに。 カカシは、目の前で前後に振れるイルカの腕を思わず掴んでいた。
掴んで、引き寄せて、抱き締めて、そのまま今まで抑えてきた気持ちを吐露しようかと思ったが、ぎくりとして振り向いたイルカの警戒心丸出しの反応にカカシの昂揚しかかった気持ちは萎えた。 まぁいい。 もうこれきり会えない訳じゃない。 あの多重結界陣があるのだから里は守られる。 イルカも守ってやれる。 今まで待ったのだ。 もう少し待つことくらいどうってことないではないか。 ちょっと泣きたくなったが、そう自分に言い聞かせイルカから手を離した。
だが、話の途中途中で見せるイルカの物言いたげな表情に、これは、と目を瞠る。 ゆらゆら揺れる黒い瞳。 開いては閉じる口元。 小さく吐き出される吐息。 何か迷っている雰囲気が駄々漏れのイルカは、多分自分では全然そんな気は無いのだろうけれど、カカシの欲望のツボを押し捲った。
我慢だ、俺。
そうだ、今日のイルカは何時もと何か違う。 待っていればきっと向こうから何か言い出すに違いない。
待つんだ、俺!
手を伸ばしても伸ばしても、スルリと逃げてしまうイルカ。 その繰り返しが、例えここで自分が押して押して押し捲ってイルカをモノにしても、いつ何時逃げられてしまうか解らない、という強迫観念に育っていた。
イルカから言い出したという状況を得られれば、言質を取れれば絶対逃がさないのに。
そう思って待ちに待ったが、イルカは一向に口火を切らなかった。 それどころか、中忍は障壁を守ると言い出しカカシは焦った。 自分の勘は当たる。 障壁は危ない。 他の中忍がやられても構わない、という訳ではもちろんない。 だが、自分の知らないところでイルカが危険に晒されると思っただけで柱の任に集中できない気がした。 もしイルカが障壁に配置されると言うならば、事態が収拾するまで縛ってでもどこかに軟禁してしまおうかと真剣に考えたほどだ。
「障壁組ではないですよね?」
違う、と言う答え以外は認めない只の念押し。 それでもイルカが頷いたので安心する。 そうだ、おかしいくらいほっとした。 笑えるくらい体の力が抜けたのだ。
---俺はもうだめだ 引き返せない この人が欲しい
カカシは、それまで心のどこかでまだ諦められる、と思っていた自分が居たことを知り、だがもう既に完全にイルカに囚われている自分をはっきり自覚した。 そして諸手を挙げて降参しようとした時だった。 ピーっという鳥の声が思考を断ち切った。
その、上忍召集を告げる式鳥の甲高い鳴き声は、再び昂揚しかけたカカシの気持ちを削いだ。 空中に飛び交う鳥の多さが事態の深刻さを知らせ、溜息と共にまた想いを封じ込める。 今日はよくよくついていない。 こういう時はおとなしくしているに限る。 手に入れたいモノと失いたくないモノが同一であるにも関わらず、それらは天秤の両サイドにあった。 否、両方失う可能性さえある。 柄にもなく慎重にさせられるイルカという存在の不確かさは、自分の中での五年間の彼の不在が感じさせるものなのか。 さっきは確かにこの手に感じたイルカの腕の感触を反芻し、無意識に半歩近寄っていた自分をイルカの反応で知る。 イルカは見えるほど体を揺らし、同じだけ後ろへ退いた。
---傷つくなぁ
そのラジオをください、とごまかしながらも苦い心情は苦笑として漏れる。 それくらいは許してもらいたいものだ。 イルカの手に極力触れないように気を使いながら、どんどん萎んでいく気持ちどうすることもできない。 これから来る異常事態へ向けてモチベーションを維持しなければならない。 今はイルカとの事は忘れよう、と自分に言い聞かせた。 だが、当のイルカはどうなのだ? とカカシは途方に暮れた。 イルカは、ラジオを摘まみあげて離れていくカカシの手をじっと追いかけて視線を外さずにいる。 そのくせ黒い瞳は相変わらずゆらゆらと揺れ、目に映った物を見てはいなかった。 引き結んでは解かれ、小さく息を吸ってはまた引き結ばれる口元に、吸い込まれるような錯覚を覚えて、慌ててカカシは自分を制する。
---三度飛び退かれたらもう立ち直れないよね。
行きましょう、と促して背を向ければイルカの気配が変わった。
「俺はまだちょっと確かめたい事があるので、先に行っていてください。 一旦ここで別れましょう。 後で本部でまた合流することになると思います。 もうお話しする暇はないかもしれませんけど…」
柔らかく微笑みながら告げるイルカからは、何かに迷っていた雰囲気が無くなり、ふんわりと柔らかくなんでも受け入れてくれる何時もの”イルカ先生”へと戻って行った。 張り詰めた脆そうなガラスの壁が塵と崩れ、風に溶けて消えてゆく。 後に残るは、何時もの柔らかそうに見えてその実何より強固な鉄壁の要塞に閉じ篭るイルカだった。
---諦めた?
心臓がドクリと打つ。
---諦められた!
カカシは今度こそどうしようもなくイルカへの衝動に身を任せてしまった。 イルカとの間合いを一気に詰め、逃げられる前にその両腕をがしりと掴む。 そうして詰ってしまったのだ。 どうしようもなく。
目の前には大きく見開いた黒い瞳があった。 口までぽかんと開いちゃって、ほんとに人の気持ちに鈍いんだから。 ”拒否”ならまだ良かったのかもしれない、とカカシは思った。 それならまだ、こちらの気持ちを理解している、と言う点で進んでいるというものではないか。 この人には、一から十までいちいち言葉にして説明しなければダメなのかもしれない。 イルカからの言質を取ろうと頑張ったがもういい、俺の負けだ、と多少自棄ぎみになってカカシがイルカに敗北宣言をしようと口を開きかけた時、イルカがするりとカカシの腕から逃れて音も無く数歩後へ退いた。
「え?」
かなりショックだった。 三度逃げられた事もそうなのだが、しっかり掴んでいた筈の腕から苦も無く抜けられた事が上忍として有り得ない気持ちになり、空の手を思わず見つめてしまった。
「俺は、俺は…、あなたが好きです。」
「は?」
今度はばっと顔を上げさせられ、呆けた表情を取り繕うこともできない。
「ご、ごめんなさいっ」
「ど」
どうして謝るんですか、と問おうとしたが、もう数歩後退して今にも飛んで逃げそうなイルカを取り敢えず捕まえなければ、とカカシは思わず上忍の本気を出して瞬歩した。
---もう何がなんだか!
いつもより明るい月明かりはいつもより濃い影を作るのだろうか。 闇に溶け込むように気配を希薄にしていくイルカの腕を掴もうとして手が宙を掻く。 カカシは、イルカの事を見損じていたことを思い知った。 五年前も中忍にしておくのは惜しいと思った。 その時の彼も、舌を巻くほど逃げ足が速かったが、あの時は地の利が彼に有ったし、唯すばしこいと言うだけだったように思う。 だが今、イルカは息をするように自然に自分を無にしていく。
---この人は天性の忍なのだ。
カカシは感嘆と共にイルカを見直した。 忍とは本来こういったモノであるべき存在だ。 力が有り過ぎると忘れがちだが、忍とは、闇に紛れ、気配を殺し、危険を読んで回避するのが最良だ。 戦わず、気付かれない裡に仕事を済ませ、痕跡を残さず逃げる。 この、上忍の俺が焦る程の気配の希薄さはどうだ? カカシは左目の上から額宛をずらし、車輪眼を使ってやっとイルカの姿を然と見定める事ができた。
「逃げないで!」
手は縛の印を既に組んでいる。 そこまでさせないで、と心で叫んだ時、なんとイルカが闇からわっと飛び出してきてカカシに掴みかかってきた。
「だ、ダメですっ 写輪眼を今使っちゃっ」
---な、なんで?
左手で肩を掴まれ、右手はぐいぐいとカカシの額宛を引っ張って元の位置に戻そうとするイルカに、今度はカカシがぽかんと口を開けさせられる。
---この人、いったいどうしたいの?
逃げたいんじゃないの、と思わず呆けるが、取り合えず捕まえろ、そして離すな、と声がして辛うじてイルカが逃げてしまう前に体を動かした。 イルカの背に両腕を巻きつけぎゅうと締め付ける。 だが、これでやっと捕まえたと安心するのも束の間、イルカの身動ぎひとつでまた腕が緩む。
---信じられない!
カカシはとにかく動きを止めたくて、とっさにイルカの口を塞いだ。
「んっ んむ」
やっとおとなしくなった。 唇を優しく吸いながら硬直してしまったイルカの体を抱き締め、足を掛けてその場に押し倒し体重をかけて拘束する。 ここまでしてやっと安心できた。
「逃げないでくださいよ」
ちゅっちゅっと啄ばみながら懇願すると、ぼーっとしていたイルカはハッとしてカカシの顔を穴の開くほど見つめた。 そして、
「あっ またっ」
見る間にイルカの体が地面に溶け込んで行く。 カカシはさすがにカッとして消え行く手首を掴むと、額宛を押し上げて写輪眼を剥き出しにした。 只の幻術だと解っている。 写輪眼には元のまま地面に横たわるイルカが見えた。
「逃げるなっ!」
もう印を結ばれては堪らない。 両手首を地面に縫いつけ一喝すると、イルカはびくっと震えてじわわ〜と目を潤ませ出した。
「ご…めんなさ… も、逃げませんから、写輪眼、隠してください。」
「信じられないっ」
えっえっとしゃくりあげ出したイルカをそれでも信じられずに拘束を解かず、地面に磔たまま詰ってしまう。 だってそうではないか。 ここまで翻弄させられようとは思ってもみなかったのだから。
「お、怒らないで…くださっ」
---もう、ずるいんだから。
泣き濡れるイルカにこれ以上強く出る事ができなくなって、カカシはイルカの両手首から手を離して後頭をがりがり掻いた。 惚れた弱みだ、仕方ない。
「怒ってないですよ。 泣かないで」
イルカに跨ったまま身を起こし、額宛を直す。
「もう、なんだってあんなに本気で逃げるんです?」
「だって、だって、あなたが、お、怒るからっ」
まだしゃくりあげるイルカの腕を引き起こして、向かい合わせに抱き寄せるとその背をぽんぽんと叩いて落ち着かせる。
「最初から怒ってなんかなかったんですよ。 怒鳴ってしまったのは悪かったけど、あなたがあんまり逃げるから。」
背中をできるだけ優しく擦りながらイルカの肩に顎を乗せて言い募ると、イルカもカカシの肩口に顔を埋めて鼻を啜った。
「ごめんなさ、でも、勝手に体が逃げちゃうんですもんっ」
「もんって、あなたねぇ」
「俺、俺、中忍なんですよ? 上忍の方の殺気に当てられたら考える前に逃げないと殺されちゃいますもんっ」
「殺気なんか俺、出しましたか?」
「う〜、怒って、らっしゃいました…」
「逃げるからでしょ?」
「だって、体にそう染み付いてるんですっ どうしようもないんですっ」
「あなた、あれでどうして中忍なんですか。」
「そっ そんなこと、言ったってぇ」
新たに泣き出そうとするイルカの肩を、よしよしと叩きながら嘆息する。
もう降参です、参りました。
「ねぇイルカ先生、俺達どうしてこんな追っかけっこしてたんでしょうね?」
そろそろ本題に入らせてもらおう。 なんせ、時間が無いのだから。
え? と予想通りに怪訝そうな顔をするイルカに苦笑を漏らし、カカシはイルカの顔を両手で包んで唇にキスした。
「カ、カカシさんっ」
ちゅっちゅっと何度か角度を変えて啄ばみ、それだけで硬直するイルカの瞳をじーっと覗き込む。
「イルカ先生、さっき俺になんて言いましたっけ?」
「え…と、俺、あの……、あっ」
「やっと思い出してもらえました?」
ぼふんと赤面して固まったイルカの唇をんーと味わい、忘れんなよなぁ、と心の中だけで突っ込みを入れる。
「これが俺の答えです。 直ぐ答えたかったのに、逃げられて俺、傷つきました。」
ごめんなさい、とシオシオと項垂れるイルカは首筋まで朱に染めていて、ごくりと喉が鳴ってしまう。 そうだ、ここぞとばかりにイルカを追い込んで追い詰めて、もう逃げられないようにしなくては。
「もうあんまり時間も無いんで、単刀直入にいかせてもらいますけど」
そう言うとイルカはハッと表情を硬くした。 月の事も思い出したか。 解るが、もうちょっと待ってもらおう。
「俺はね、イルカ先生、あなたからそう言って貰えるのをずっと待ってたんですよ。」
まぁ、なかなか言ってくれない上に勝手に諦められちゃって切れかかちゃったんだけどね、と心の中で舌を出す。
「俺がずっとあなたのこと好きだったの、気付きませんでした?」
ずいと身を乗り出して顔を近づけると、イルカは仰け反って後ろに腕を付きブンブンと首を何回も横に振った。
「言っときますけど、俺の方がずうっと前からあなたを好きですからね。」
更に顔を近づけ、掠めるように接吻けをすると、ぴきっと固まり目を見開く。 そう、自覚してもらわなければ困る。
「俺の”好き”はね、イルカ先生。」
こういうことしたり、とべろりと唇を舐め上げその鼻梁の傷に接吻け
「あなたのアレをしゃぶって、もう出なくなるまで吸い上げて、あなたをアンアン善がらせたり」
するりと際どい場所をいやらしく撫で上げ
「俺のコレをあなたにぶち込んで、気絶するまであなたの中を掻き回してめちゃくちゃに突き上げて、あんたの中に溢れるほど俺のを注ぎたいって言う”好き”なんですけどね。」
ずずいとイルカの体に乗り上げ、欲望の証をイルカの股間に擦り付けると、イルカはカーっと赤くなり、そしてゆっくりと青くなった。
「解ってくれました?」
かくりと肘を折り仰臥してしまったイルカを満足げに腕に抱き込み耳に吹き込むように囁くと、イルカは硬直したままこくこくこくこくと細かく何度も頷いた。
「じゃあ約束。 これが終わったら会ってくれますね。」
こくこく。
「俺、その時は我慢しませんから。 途中で止めません。 覚悟、しといてください。」
こくこくこく。
「全部、もらいますから」
そう言ってゆっくり接吻けようと体重をかけると、イルカが手でカカシの口を抑え、切なげに眉を寄せて喘ぐように言った。
「カカシさん、俺は…、俺はあなたが好きです。 何でも差し上げます。 全てが無事終わったら、また会ってください。」
そうしてカカシの両頬を両手でそっと包み、伸び上がって神聖な誓いのキスのような、拙い接吻けを寄越した。
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