ShortShort




               - 0GH -


 推力航行から慣性航行に切り替えると、船内から重力が消える。 小さめのボイドの端っこの方を横切り、古い文献で唯の”銀河”と呼ばれる銀河系に入ったところだった。 大きな腕が数本有るきれいな渦巻き状の銀河で、その腕の一本の真ん中より少し外よりにある星系を目指して最短コースを飛んできた。 今居るのは、巨大質量はおろか星屑さえ存在しない島宇宙と島宇宙の間のボイドとまではいかなくても、充分に間隔の有るところだった。 当分はこのままオート・コントロールで問題ないだろう。 隣はと見ると、イルカもヘルメットを取るところだった。

「はぁっ やっとここまできましたねー」
「ワープ航法とかあるといいのにね」
「ふふ、スパゲッティになったりして?」
「む、急に腹減ってきた」
「何か食べましょう」
「でもー、ね、イルカ先生、その前にー」
「は」

 怪訝そうな顔に笑いで返すと、ほんのちょっとだけ目の下の頬が赤らむ。

「イルカ先生、顔赤いよ」
「そ…それは、カカシさんが…その」

 俺が?

「カカシさんこそ紅潮してますよっ 顔に、な、なんか書いてあるし」
「なんて?」
「そ…」

 ふふふ、イルカ先生ったらかわいいんだから。 ほらほら正直に。

「あ、アナタがその、欲しいって、書いてあります」
「せーかーいっ!!」
「もうっ」

 今や真っ赤になった顔を俯けてイルカは掴まっていた椅子の背を蹴った。

「あ、待って〜」

 スイっと泳ぐように操縦室の出口に向かって頭から漂って行く彼を追い、自分も椅子の根元辺りを蹴る。 無重力状態では上下という感覚が無くなる。 有るのは、奥と手前、進行方向に向かって何時の方向か、それだけだ。 カカシはくるくるとスクリューしながらイルカに続いてドアを潜った。 通路にはそこここにフックが有り、フリークラインミングの要領で行きたい方へ進んでいく。 時には手でそれを掴んで押して壁を蹴り、時にはクルンと体の向きを入れ替えて直接足で着地と同時に蹴る。 推進、或いは制動の為に主エンジンを吹かしている時は、船首に向かって縦に伸びているこの通路は絶壁になるので、これらのフックは電動で移動するようになっている。 エンジン稼動時は発電もするので問題無いのだが、光発電も不可能な、恒星が近場に無いような星系間慣性航行に入ると、生命維持以外のためには極力電力を使わないように自動的に省エネ・モードに入るので、無駄に船の外郭---居住区などが有る---を回転させて遠心力を発生させたり、フックを壁に沿って電動で這わせたりはしないのだ。 ただひたすら節電、節エネルギーに努めるのが乗組員の常識となっている。 といっても、今この船には俺とイルカしか居ないし、この系内には充分燃えてる太陽があるが、まだちょっと遠いので省エネ・モードにしてあるのだ。 それに、イルカはコリオリ酔いし易いので、遠心力による擬似重力場には中々慣れない。 Hなんてもっての他とか言われちゃう。

「イルカ先生ー、待ってー」
「はいはい」

 久しぶりの無重力遊泳にはしゃぎ過ぎて随分遅れた自分を、イルカは私室の入り口のバーに片手で縋り、もう片方の手をこちらに差し延べて待っていた。 嬉しいッ! 嬉しすぎて死ぬッ 思い切り反対側の壁を蹴り、イルカの手を掴んでそのままの勢いでイルカの胴体にタックルかまし、開いたドアから中へと二人、抱き合ったまま突っ込んでしまった。

 ドンッ ヴァサヴァサヴァサーッ カンッ カンッ カシーンッ

 イルカの机に激突、机上の固定箱の蓋を飛ばしてしまい、色々な物が散乱してそれぞれ壁や自分達同士でぶつかり合い、行ったり来たりを始めた。 ドアの前にベッドがあったらよかったんだ。 星に住んでた時みたいなベッドがさ。 俺の部屋にはまだベッドらしき物がある。 でもイルカ先生の部屋は、書類や本やレポート紙、ペン、インク壺、吸い取り紙、ノートノートノート…、紙や本などの資料でいっぱいなので、眠る時だけハンモック状の寝袋に体を固定して天井辺りで寝ているのだ。 パソコンも勿論あるし、イルカ先生が書くときは電子文字だけど、イルカ先生が読むのはそういう紙だ。 紙、高いのにな。 イルカ先生は紙が好き。 特に文字がいっぱい書かれている古い紙が大好きで、とっくに絶えて久しい”手で文字を書く”という事にも一生懸命取り組んでいるし、俺とこんな島宇宙間航行までして遠い故郷の星へ行こうとしている。 そこにはいっぱい文字が書かれた紙や本があるんだそうだ。

「カ・カ・シ・さ・んーーッ」
「ご、ごめんなさーーーいっ」

 ここで離したらダメだと俺は知っている。 イルカ先生はやっても無駄な部屋の片付けを始めちゃう。 無重力の時の片付けほど虚しいものは無いのにな。 どうせ液状の物は防水がしてあるんだし、ドアを閉めちゃえば無くなったりしないしない。

「俺の部屋、行こ? ね?」
「ダメです、片付けなきゃ。 離してください。」
「今片付けたって同じだよ。 ね、今は俺の部屋で、ね? 久しぶりなんだしさ」
「久しぶりったって3日前にシタばっかりじゃないですかー」
「3日前ってそりゃ、コールドスリープ抜かしての話じゃないですかぁ」
「普通抜かすでしょ」
「抜かしませんッ」

 いったいどのくらい眠ってたと思ってんだ、全く。 俺達は33年間眠っていた。 いくら夢も見ないで半分凍っていたからって、いくら寝入ったのが昨日のことのようだからって、俺の体は正直なんだ。 いっぱい寝た後はアレだろ、勃起つだろ普通。
 3日前、系内に入る前にアラートで起こされ、酷い時差ぼけ状態から醒めるのに半日、それからなんとか外側の惑星を4個ほどスルー、その先の直系15万kmはあろうかという巨大ガス惑星でスィングバイして減速し、今の今まで次の惑星との間に厚く広がるアステロイド・ベルトを細心の注意をしながら通り抜けてきた。 減速に利用したガス惑星自体幾つも衛星を持っていたので、事実上スィングバイに入る前から30時間以上ゆっくりと眠れていなかった。 それに、イルカ先生は俺よりずっとGに弱い。 この星系の太陽に真っ逆さまに落ちてきた俺達の船を、なんとか惑星の準公転軌道に乗るまでに曲げ、更に減速した。 減速時にかかったGがかなり堪えているはずだ。 疲れているだろう。 でも、俺は彼が欲しい。

「抜かすって言うならココ、イルカ先生のココもまだ俺ので濡れて緩んでるはずだよね」
「な…に、言って」

 いやらしく捕まえたままのイルカの腰を片腕で強く抱きこみ、右手を伸ばして彼の双丘の狭間をスルリと撫で付けると、彼は見ていて面白いくらい一瞬で真っ赤になった。

「だって、セーフティ・ボックスに入る前にヤッたじゃん、濃厚に」
「あ、だ、あ、ど、う〜」

 あれは、だって、アナタが、どうしてもって言うから、う〜、みたいな? かっわいーなー、イルカ先生。

「目的の星まであと十数時間。 星に降りたら俺達多分重力で立つ事もできないでしょ? だから今のうちにいっぱいヤッとかなきゃ、ね?」
「ねって…」

 少し俯いて視線を外し、相変わらず赤い顔のままで考え込む表情がちょっと迷っている風で、お、これはイケそうだと教えてくる。 もう一押し!

「ね、イルカ先生、大好き」

 そこで俯いた顎をクイと上げ、そろそろ抵抗の弱まってきた体をぎゅーっと抱き竦めて唇を奪う。 最初はちゅっと慎ましく、一回二回三回それッ

「う…んっ」

 喉を鳴らすようにして深いキスに応えてくるイルカが体から力を抜いた。 首に腕が回る。 やったっ! その気になった!

「イルカ」

 俺欲情してます、もうビンビンですほら、と腰をイルカに擦り付けると、イルカもモジと腰を揺らす。 うぁ堪らん。

「じゃコッチ、俺の部屋で、ね」

 ちゅっちゅっとキスを途切らせないように気遣いながら、抱き合ったまま隣へ移動。 隣へ…

「あ、あのーイルカ先生?」
「はい」
「やっぱ一回離れないと移動できない、みたいな?」
「え? …あ!」

 俺達は、イルカの部屋の紙類とともに浮いたまま、接吻け合っていた。

               ・・・

 無重力Hのコツは、体と体を適度な緩みを持たせてロープで繋ぐこと。 イルカの部屋では彼の袋状のハンモックに二人で潜り込んでスルので、体を繋がなくてもそれなりにデキルのだけど、イマイチ足場が突っ張れなくて俺はちょっと不満なのだ。 俺の部屋では俺達をロープで繋いでスル。 俺にとっては、それは慣れた手順。 まず全裸のイルカの腰にベルトをし、背中側で俺の簡易ベッドへ繋ぐ。 それから腹側で俺のベルトと緩く繋ぐのだ。 この緩さ加減がそれはもう試行錯誤だったのよ。 近過ぎると可動域が少な過ぎて上手くバコバコできない。 でも遠過ぎると体が一々逃げてしまって、とても焦れったいことになってしまうのだ。 彼をアンアン鳴かせて尚且つ俺も気持ちくて、ここぞという時一発決められる勢いと踏ん張りを得られる距離。 その絶妙な距離に今、自分達を繋ぐ。

「先にジェル着けとくね。 いざって時どっかいっちゃてると困るし。」
「は、はい」

 俺がその作業を絶対イルカに手伝わせないので、手持ち無沙汰になって羞恥心ばかり煽られる彼は、俺の部屋でヤリたがらない。 今も、せっかく落ち着いた顔色をまた赤く染めて、声も消え入りそうにしながら答えた。 そんな表情や仕草に、いちいち俺が煽られるって、この人きっと気付いてないんだろうなぁ。

「さぁて、3日振りのイルカ先生のごっきっげんいーかがっ」
「み、3日じゃなくって、33年振りです」
「あれ、だってさっきは3日しか経ってないって」
「あれは、精神的にっていう意味で」
「へー、じゃあ俺のココがこんなにビンビンなのって、やっぱり下半身と頭は別物ってことかな」
「アナタの場合は3日だって1日だってび、ビンビンじゃ、な、なな」

 言いながら俺のソコを見てしまって、更に首筋から胸元まで赤く染め、イルカは口篭った。 堪らない。 もうメチャクチャ愛しちゃうもんね。 愛しい愛しいイルカ先生。

「アナタのもほら、もうその気だよ」

 右手の指2本にチューブからジェルを全て押し出し、彼のアナルにゆっくり塗り込めながら、そっとイルカ自身を撫で付ける。 でもまだソコはそれ以上はしない。 ソコはずっと後のお楽しみ。 でも彼は唇を噛んでぎゅっと目を瞑る。 その瞼に片方づつ接吻けて、それから頬に、顎に、耳に、耳裏から首筋は殊更丁寧に舌と唇を這わせ、鎖骨に舌先を挿し込むとイルカの体が仰け反る。

「はっ」
「うーん、感度は変わってないね」

 彼が仰け反ってベッドを蹴ったので、一回ベッドとの繋ぎが伸び切り俺達ごと浮き上がってから、また戻る。 俺は左腕で彼の腰を抱き込んで、なるべく体が密着したままを保つよう気を配る。 最初は特に、肌と肌を直接くっつけていることが大事なのだ。 俺の方はいいんだけど、抱かれる側は気持ちが盛り上がってないと中々準備が整わない。 つまり、解れてこないのだ。 女と違うからジェルで解しはするけれど、でも受け入れる準備が整えば幾らか体液が分泌されてくるし、柔らかく拡がってくる。 それは女だって一緒だ、と何かのサイトで読んだ。 実を言うと本物の女とシタことがない。 女は稀少だから、俺みたいな庶民の目に触れる所になんか居ないのだ。 でも俺にはイルカが居るので女なんか要らない。 彼以上にセクシィな存在なんか無い。
 とにかく、慣性での行ったり来たりが幾らか収まるのを待って、また愛撫を再開する。 さざめくように産毛が総毛立って震えている。 それを掠めるようにして胸に唇を這わせ、最初の目的地に辿り着くまで焦らして焦らして、やっとソコに片方づつ舌先を当てる時にはもう硬く尖っている。 敏感なイルカ。 ああ、早く合体したい。

「あ、ん、んふ」

 しめやかな喘ぎ声を聞きながら鬼の我慢をしてイルカを解し、解しながら体中に接吻け、接吻けながら愛の言葉を囁きかける。 俺はもしかして凄くマメなのかもしれない。 けど、別に無理してやってる訳じゃあないので、やっぱりこれは愛の為せる業なのだ。 マメって言うとアレでしょ、なんか努力してやってるみたいな響きがあるでしょ。 でも俺は、気が付くともうイルカがトロトロになるまで愛撫してるし、そんな彼を見るのが何より好き。 煽られる。 これが愛じゃなくてなんなのよ。

「イルカ先生、挿れるよ」
「は、いぃ」

 か細く絞り出すように答えるイルカの顔から、汗が噴出しては微細な球状に浮き上がって周りに散っていく。 俺の周りにはもっと有るだろう。 ああ、繋がりたい。 早く、早く。 一回腰のベルトの繋ぎ目を引っ張って体勢を変え足をベッドに突っ張らせると、イルカの頭を反対にベッドヘッドの方へ下げる。 イルカは覚束ない手付きではあったが、ベッドの両サイドのハンドルを掴みベッドヘッドに頭を宛がう。 そうしてなるべく体を真っ直ぐ保てるよう幾らか力を入れて、俺が入ってくるのを目を瞑って待っている。 俺は彼の足の間で自身をイルカの解したアナルに宛がって、先を何度かぬるぬると擦り付けると、彼の腰を両手で掴む。 そして引く。 足を突っ張ってグイグイと。

「イルカッ」
「あっ ああっ」

 33年振りの彼の中へ、俺は入る。 そうやって俺達はやっと繋がる。

               ・・・

「あ、あん、ん」

 はっはっと自分の荒く吐く息の音が、彼の喘ぎ声とともに耳に入る。 耳元でドクドク言う血管の中を血が行き来する音も煩く聞こえてくる。 繋がるまでが大変だけど、一度繋がってしまうと後は俺様の腕力がモノを言う。 俺は言っちゃあなんだがイルカを鳴かせる為だったら幾らでも体を鍛える人間であるので、そこら辺は怠りなくしてきたつもりだったのだが、やはり33年のブランクは大きかったようだ。 ちょっとシンドイかも…い、いやいやいや、全然辛くなんかないのよ? ないけどでも、ふたり浮いたままでイルカの腰を掴んで引き寄せ、引き離してする注挿は、なんだかちょっと物足りない。 ああ、やっぱり重力Hがしたいなぁ。 こうグイグイとさ、角度をつけて抉ったりとかさ、イルカのイイとこ擦りながら入り口から奥まで突いたりさ、うんと奥の内壁に先っぽ当ててグリグリしたりさ…うん? それはできるね。

「イルカ、だいじょぶ?」
「う、ん、だ、ダメ」
「だいじょぶそうね」
「だめ、です、あっ」

 腕を引いて仰け反っている上半身を抱え上げると、イルカは中の俺の角度が変わってイイところを突いたのかフルッと震えて首に縋り付いてきた。 上出来。

「うん、そのまま、掴まっててね」

 背中をぎゅっと抱き締めると彼の胸元にちょうど唇が当るので、当然の如く尖った突起を口に含みながら、今度は下半身に頑張ってもらう番だと両足に力を篭める。 イルカとベッドを繋いだロープのベッドとの設置点に丁度足が来るように立ち、踏ん張りながら上のイルカを抱き締めると、イルカの中を奥まで抉ることができる。 彼が、自分の体が逃げないようにしっかり俺に捕まっていてくれると、より遣り易い。

「あっ あっ うっ んっ」

 よしよし、ちゃんと掴まっててくれてる。 結構イルカ先生もノリノリだ。 あと2回くらいイケる?

「あっ カ、カカシッ カカシッ あん、カカシーッ」

 と思ったんだけど、ベッドで以外は絶対俺を呼び捨てないイルカ先生は、何回もカカシカカシと叫んだ後、失神してしまった。

               ・・・

「見て」
「うん、大きいね」
「それに青い、すっごく」
「うん、奇麗だね」
「空気も濃ゆそう」
「ドームみたいなモノが一個も見えないね」
「要らないんですね、きっと。 わぁ緑がいっぱい!」
「密林、かな。 ほら太っとい川もあるよ」
「あ、影からほら、衛星? あれ」
「でっけぇー!」
「きっとアレが”月”ですね」
「うん! すっげぇ、アレだけで俺達の星とおんなじくらいじゃん!」
「アレでもう一回減速して、”地球”の衛星軌道に乗りましょう」
「あのさ、あと一回月でスィングバイしたら月が地球の重力圏から脱出しちゃうっていうの、俺読んだんだけど」
「ああ、俺の本棚の古い本、読んだんですか」
「うん、イルカ先生の訳文がついてたからなんとか。 ね、大丈夫かな?」
「あれはSFですよ。 それに俺達が今からしようとしてるのは進行方向に回り込んでするスィングバイだから、奪うベクトルは推進力の方で張力ほうじゃありません。」
「うーん、よく判んない。 けど、大丈夫なんだね?」
「はい、えと、多分」
「たぶん?!」
「そ、それよりカカシさん。 月の軌道より内側にリングが見えませんか?」
「え? リング?」
「俺の目じゃ、ちょっと見えないんですけど」
「あー、ほんと! 有るよ有る! 薄っすいのが」
「やっぱり本当だったんだ」
「地球ってリングのある星なの?」
「いえ、元々は無かったらしいんですけど、なんかね、温暖化が進んでどうしようもなくなって、人工のリングを造ったっていう資料があったから」
「へー」
「氷でできてるらしいんですけどね」
「それで? 温暖化は?」
「それが、巧くいったっていう資料と、逆に冷えすぎて氷河期が来ちゃいそうになっちゃったとかいう資料とあって」
「ふーん、結果について信憑性のあるデータが無いんだ?」
「まぁ、リングを造ったって資料でさえ、今の今まで疑ってたくらいでしたし」
「でも、見た目、氷河期って感じの地表じゃないね」
「そうですね。 降りてみればもっとよく判るでしょうし、きっとちゃんとした資料がありますよ。」
「でもさ、もし知的生命体が絶滅しちゃってたらどうすんの? 原始なかんじに戻っちゃってるかもよ?」
「本はきっと残ってますよ」
「やっぱ、どうしても降りる気なんだ」
「もちろん! 何の為にここまで来たんですか」
「危険がいっぱいだよ、きっと」
「カカシさんが居るじゃないですか」
「そ、な、…ずるいなぁイルカ先生ぇ。 もちろん俺はイルカ先生を守りますよ?何からだって。 でも」
「だいじょうぶですって」
「もー、こういう時だけ楽天的なんだからー」
「頼りにしてます」
「だって、きっと重力も凄いよ、あんなに大っきいんだし。 いっくら俺だって思うように動けないよ、あー自信無いなぁ。」
「スーツ着てれば平気じゃないですか?」
「スーツだってさ、バッテリ切れたら唯の鎧だかんね」
「大丈夫、ここなら充分光が来るし」
「夜はどうすんの? 自転周期って何時間だっけ」
「24時間だって書いてありました」
「それって何千年前の記述? 自転速度って普通だんだん落ちるもんでしょ?」
「まぁそうだけど、でも、多分15時間くらいじゃないかと」
「ああ、夜が15時間かぁ、くそーっ」
「なんですか?」
「そんだけあれば思う存分Hができるなーって」

 ボクッ(イルカの右フックが俺の左頬にめり込む音)

「どの口が言いますか! 昼も夜も関係ないくせに」
「ふ、ふいまへん」
「それに、どっちにしろ降りたら当分Hは無理ですよ。 まずスーツ無しに立てませんて。」
「何を言うですか! 俺のチ○コはどんな重力でも立派に勃起たせてご覧にいれますよ!」

 バキッ(イルカの左アッパーが俺の顎を砕く音)
 ズンッ(俺が沈む音)

「イ、イルカふぇんふぇー、痛い…」
「ああ! 楽しみー! あそこできっといっぱいの本が俺を待ってる!」

 イルカ先生は、どうも失神させたことを根に持っているみたいだ。 なんか言葉の端はしに棘が…。 ま、とにかく、俺達の船は一つ手前の惑星でまた減速してからは、船の前後を入れ替えてエンジンを吹かす、所謂逆噴射をして最後の急制動をかけている。 なんとかこの”地球”の引力に捕まえてもらえる程度には減速しなくちゃ。 だから今は擬似重力がある。 重力が有る時に殴られると痛い。 段々その星が大きく見えてきて、イルカ先生はその青い星の美しい姿にワクワクうきうきだ。 もちろん俺も。 想像以上に大きいのにちょっと動揺。 せめて俺達の星くらいの大きさだったらな、筋力回復もすぐできるだろうに。 でも俺頑張っちゃう。 だって重力に慣れなきゃHができない。 俺、どうしても重力Hがしたいんだもん。 その方がいろんな角度でイルカを責められるし、前からも後ろからも横からもできるし、快感の深さが全然違うんだもんっ



 その後、体験したことの無い濃い空気の層がある星へ降りた俺達の船は、激しい大気圏突入に少しイカレテしまった。 データ収集したらサッサと帰るつもりでいた俺達は、思わぬ長期滞在を強いられた。 ちょっと鍛えて重力H!なんて甘い考えだったと、スーツが無かったら何もできんじゃないの!どうすんのよコレ!と焦る俺を尻目に、持ち前の楽天性を発揮したイルカは早々に筋トレ開始。 それに引き摺られて、俺も何とかその1Gという重力に順応しようと努力を重ね、一ヶ月でどうにか立って歩けるようになった。 生命に満ちた古い古い故郷の星。 青い青い水の星。 その星で、めくるめく重力Hをするまでには更に半月を要したのだった。