ShortShort
- sexless -
最後にシタ時、誘ったのは自分だった。 その時、彼は勃起たなかった。 いや、初めはその気になってたのは確かなのだけれど、上になれと言われて拒むと、彼は萎えた。 誘ったのは自分だったが、だって、セックス自体がとても久しぶりだったのだ。 愛してもらいたかった。 唯彼の体の上に乗って腰を振り、体の快楽だけを追いたくなかった。 悲しかった。 悲しくて涙が零れて止まらず、部屋から逃げた。 その後、自分から誘えなくなったとしても、それは自分の所為だろうか。
とにかく、自分が誘わず、彼もまた誘ってはくれなかったので、自分達はセックスレスな関係になった。 もう数ヶ月が経つ。 それなのに何故、自分達は一緒にいるのだろう。 不自由なことこの上ない。 しかも男同士なのだから余計だ。 何故、彼は出て行かないのだろう。 彼が不能になったわけではない事は判っている。 時々自慰をしているのも知っている。 もしかしたら外で誰か他の、男か女か知らないが誰かと、セックスしているのかもしれない。 自分だって浮気をしようかなと思った事は1度や2度ではないし、大人の道具など購入してみようかなと、真剣に悩んだことだってある。 でも、彼が他の誰かと寝るのと、自分が他の誰かに抱かれるのでは、やはり重みが違うように感じるのは何故なんだろう。 抱かれる者の貞淑さは重く見られるのに、抱く者が遊んで歩くのは容認される。 それどころか歓迎されるきらいさえある。 「据え膳食わぬは男の恥」ってなんだ? 抱かれる者がもし裏切ったら、汚らわしいものでもあるかのように思われ扱われるのに、抱く方はどうして笑って済ませられるのだろう。
・・・
「おつかれさまでした。 ご飯は?」
「要らないです」
「呑んでるんですか」
「はーい、呑んでまーす」
外で飲んで来る回数も格段に上がった。 午前さまになるのも最早当たり前。 でも、どうして俺の家に帰ってくるのだろう。
「お風呂は?」
「明日の朝入りまーす」
「じゃ、おやすみなさい」
「はーい、おやすみなさーい」
上機嫌にさっさと寝室へ行く。 こんな日は仕事をもう少しして、風呂に入って、アルコールの力を借りて眠る。 カカシが自分の寝室で寝るので、ここ数ヶ月間は自分が客間で客用布団で寝ている。 もう、そんな生活にも慣れてしまった。
最初の頃は自分も荒れた。 尖がって、つまらない事ですぐに怒って、何か言われても返事をしなかったり、嫌な顔をして見せたりした。 なのに彼は何も言わずに、出て行こうともしなかった。 その内に、そんな自分とそんな棘々した生活に疲れてしまった。 もういい、もう諦めた。 そう自分に言い聞かせた。 今ではセックス以外のことなら笑って会話もする。 でも寂しい。 寂しくて寂しくて堪らない。 だって自分は愛されていないんだもの。 彼はもう、俺では勃起たないんだ。
パタンと寝室のドアが閉まる。 そうなってしまうと、もうそれは明日の朝までは開かない。 だから、その後で自分は泣く。 泣いて、鼻をかんで、また泣いて…。 ティッシュの山を築き上げ、虚しくなって風呂に入る。 ああ、誰かに愛されたい。 これでもかと言うほど、気を失うほど、足腰立たなくなるほど愛されたい。 寂しい。 こんな状況、自分も彼も幸せではない。 別れたほうがいいに決まってる。 そう思いつめた時もあった。 でも、そんな時に限って里が大事に見舞われて、有耶無耶になった。 今でも時々瘧のように別れようと思う時があるけれど、未だに自分達のどちらも口にしていない。
・・・
「ようようイルカ、オマエ、カカシにヤラしてやってねぇんだって? 愚痴ってたぜ」
やっと、やっと天の助けが現れた。 きっと彼が呑んで管を巻いたときにでも零したのだろう。 男同士で呑む時は、きっとそんな話題になるものだ。
「オマエも今更拒んだりすんなって、なぁ乙女じゃあるまいし」
「俺、一度も拒んだりしてませんよ?」
「え? だってオメェら、ずーっとヤッテねぇってカカシが」
「ヤッテないのは確かですけど、俺は拒んでません。 だって一度も求められてないんですもの、求められもしないのに断れないでしょ?」
「…」
その上忍は、怪訝な目をして一瞬言葉に詰まった。 だが、何を勘違いしたのか更に言い募る。
「そりゃ、たまにはオマエから誘ってやったって悪かねぇぜ?」
「ええ、最後にシタ時、俺から誘いました。 でもその時カカシさん役に立たなかったんですよね。 それなのに次からも俺が誘えって仰るんですか?」
抱かれる側がいくらその気になったって、抱く側がその気にならなければセックスは成立しないのだ。 こんな当たり前なこと、こうなるまで自分でも気付かなかったなんて…。
さすがにこれには絶句したらしく、天の助けの上忍は、何か気味の悪いモノでも見る目付きで去っていった。 きっとこれからすぐにカカシにご中進にあがるだろう。 これで別れられる。 別れたら、そうだな、花街にでも行こう。 女はもう抱けないかもしれないけど、俺みたいなのを抱いてくれる陰間茶屋なんてのも実は少なくないのだ。
どこか浮き立つような、ぽっかりと穴が開き空気が抜けたような心持でその日は帰宅した。 だが、当のカカシは終に帰って来なかった。
・・・
その茶屋にはなんとカカシが居た。 帰ってこなかったあの日からずっと居ついているらしい。 そうか、ここで他の男を抱いてたのか。 ”女”じゃなく”男”を抱いていたという事実がより鋭く自分の胸を抉った。 回れ右をしてそこを出、もうその花街の他の茶屋を捜す気にもなれずに、かと言ってその時間から他の街に行くのにも疲れ、結局自宅へ帰った。 帰って、彼が居ないので誰気兼ねすることなく泣いて、呑んで、久しぶりに自分のベッドで眠った。 ベッドはカカシの匂いでいっぱいだった。
夢を見た。
カカシが、誰か細身で奇麗な男の子を抱いている。
だからそこから走って逃げた。
「寂しい、寂しい」
泣いて走っていると大きな獣が現れ問うた。
暗い森の中だった。
『なにがそんなに寂しい?』
何の獣なのか判らなかったが、ソレは人の言葉を巧みに喋り、二本足で立っていた。
「誰も愛してくれないのが寂しい、誰か、誰でもいいから愛されたい」
『俺が愛してやろう』
「抱き締めてほしい」
『抱き締めてやる』
「息が止まるほど接吻けて」
『本当に止まらせてしまうぞ』
「抱いて、俺を犯してください」
『妖魔の俺に犯されて、ただで済むと思うのか?』
「どうなるんですか?」
『もう人間界には戻れないぞ』
「そうですか… でももういいんです。 抱いてください。」
俺には似合いだ、そう思った。 俺一人居なくなっても、きっと誰も困らない。 もしかしたら誰も気付かないかもしれない。 カカシもやっとあの陰気な家から出られて、きっと幸せになれるだろう。
自分は妖魔に抱かれた。 激しく犯され、淫らに喘ぎ、悶え、善がった。 長く尖った妖魔のペニスが腸壁を破り、内臓を串刺し、腹の中をぐちゃぐちゃに掻き回しても、大声で善がり声を上げてエクスタシーを感じた。 このまま死ぬのなら最高だ。 さよなら、みんな。 さよなら、先生方。 さよなら、さようなら、カカシさん。
『淫乱な人間の男、そこまでして体を抱かれたいか?』
「ええそうです、淫乱なんです」
『体の関係が無ければ愛も無いのか?』
「そんなこともないでしょうけど…なら、どうして最初からそういう関係を望んでくれなかったんです? どうして俺を抱いたんです? 俺は男を知らなかったのに。 ただの友達でと望まれれば喜んでそうしたでしょうに。 ねぇ、カカシさん」
妖魔は消え、森も消え、自分は自宅の自分のベッドに転がっていた。 衣服の乱れもなく、体も無事だった。 辺りをそっとさぐったが、カカシの気配も無い。
どこまでも意気地無しなんですね、カカシさん。
下手な幻術なんか使いやがってコンチクショウッ
俺はもうごめんです。
・・・
とりあえず、さようなら、と一言置手紙を残し、自分は住み慣れた家を出た。 両親とともに暮らしてきた思いで深い家だったがもういい。 カカシにくれてやる。 そうしてアカデミー教師専用の独身寮に入り、今まで通り、慎ましい一介の中忍アカデミー教師の生活を続けている。 まだ新しい恋人はできない。
「なんで居るんです?」
「夕食でもどうかと思いましてね」
「余所を当ってくれませんか。 お蔭で新しい恋にも巡り会えない。」
「そんなことさせません」
「……なんで、また俺なんか口説き直してるんです?」
「なんででしょうね。 アンタがサヨナラなんてするから仕方なく?」
「アナタが言わないから俺が言ってあげたんじゃないですか。 もういい加減嫌がらせは止めてください。」
「嫌がらせじゃあないよ」
「口説き落とすまでが楽しいんでしょう? 落ちてしまえば餌も要らないっていうのは、落とされる側からしたら迷惑千万です。 俺はもっと優しくて誠実でマメな恋人を探しますから、アナタもアナタに合った人を口説いてください。」
「イルカ先生は、そうそう恋人なんかできませんよ。 アンタすっごいめんどい人だもの。 俺だって前に口説き落とすのにどんだけ苦労したか」
「そりゃあすみませんでしたね。 もうそんな苦労させませんから、ご安心ください。」
「苦労どころか、アンタの所為で俺はインポ野朗扱いですよ。 どうしてくれるんです?」
「すぐに疑惑は解消してたじゃありませんか。 さぁもういいでしょう。 俺、次の授業に行きますんで」
職員室でのやり取りは、もう何回も行なわれている。 迷惑と口で言いながらも、楽しんでいる自分が非常に口惜しい。 実際、セックス・フレンドでもいいやと思い、呑みに行った勢いで誘われた適当な男と寝ようとした時も、男が突然怯え出して勃起たなくなったり、シャワー・ルームで伸びていたり、果ては半殺しの目に会わされていたりしたので、相手に悪いなとそれもできなくなったのだが、でもそれもちょっと嬉しかったりするのがとても腹立たしい。 陰間茶屋では玄関払いされるし、ならば普通の遊郭で久しぶりに女を、と思っても、誰も相手にしてくれないのだ。 よくもここまで手回しよくできるもんだ、なんて顔が利くんでしょうねアナタは!と、これには結構腹が立った。 かと言って、誰彼構わず誘うこともできない。 よくよく損な性分だ。
「ああ、俺このまま枯れてカサカサになってっちゃうんだ」
『素直に俺に「抱いて」って言えばいいのに』
誰も居ないはずの野っ原で王様の耳はロバの耳よろしく小さく独り言ちたのに、耳元でそんな声がする。 しかも姿は見えない。
糞野朗!
なぁーにが”素直に”だ?
バカにすんな!
今度は大声で怒鳴ってやった。
「ぜってぇ言わねぇッ!!」