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                  - 賦 -


「ギフト?」
「そう」
「先生、それってば良さそうな言葉でごまかしてるってばよ」

 俺はごまかされないからな、とナルトはラーメンの汁をずずずーっと啜りながら不満を露にした。 だが隣でやはりラーメンの汁を、丼を高々と掲げ持ってさも美味そうにゴクゴク飲んでいるイルカは、「そうか?」とだけ言ってまた丼に顔を戻す。 自分はこの師の元を卒業して間もないが、アカデミー在籍中は四六時中怒って怒鳴って説教ばかりしていたイルカは、今はほとんど怒らず諭さずただこうして偶に自分と一楽でラーメンを啜ってくれるのみになってしまった。 失くすと惜しくなるのが人の性だ。 自分を怒鳴るイルカが懐かしくて堪らない。

「ごまかしてるつもりも、良い言葉を使ってるつもりもないんだけどなぁ」

 今のイルカは、どこかほにゃっと頼りなく感じた。 どうしてだろう。 アカデミー時代はあんなにも頼もしく大きく、少しだけ怖く、とても優しかったイルカ。 自分が成長したのだろうか。

---バカだな、それがイルカ先生の地なんだよ

 後でカカシにそう呆れられた。 自分は何も知らなかったのか、大好きなあの”イルカ先生”について。

「でも俺は、そんなおまえと居ると落ち着くんだよ」
「なんだよそれ、落ち着くってさぁ」
「うーん、落ち着くって言うか、安心するって言うか」
「おんなじだってば」
「居心地いいって言うか」
「だから、おんなじじゃねぇかよ!」
「違うほうが問題だろう」
「何言ってるかサッパリだってばよ」
「おまえ、相変わらず頭使いたがらないのな」
「あ、ひでぇッ 俺だってイルカ先生が適当なこと言って俺のこと慰めてるって判るってばよ」
「俺が嘘言ってるって?」

---なんて事言ってくれたんだ!

 カカシは顔を片手で覆って大袈裟に天を仰ぎ嘆いた。 イルカ先生はな、おまえが居なかったら生きてこれなかったんだぞ、と真面目な顔をして詰め寄り、そう言った時のイルカの様子を色々細かく聞いてきた。

「そうだってば。 そんな事言うのイルカ先生だけだってばよ」
「そうかなぁ、でもこれが俺のギフトだから」

 イルカはそう言うと、変な顔をした。

               ・・・

「変な顔?」
「うん」
「どんな?」
「こーんな」

 できなかったので片眉を自分の指でちょっと抑えて中に寄せると、もう片方の手でその眉尻を下げて、口をちょっと引き結んでカカシに見せた。

「おまえね…」

 カカシは今度は両手で顔を覆った。 そして深く、ふかーく溜息を吐く。

「それでイルカ先生、その後どうした?」
「帰った」
「はぁ」

 もう三日前の話だってばよ、と付け加えるがカカシは盛大に溜息を吐くばかりだ。 剰え「なんでもっと早く言わない」と詰られ、つい先程任務から帰還したばかりだと言うカカシに一楽の前でばったり会ったのだからそれは無理だってばよ、と抗議したがカカシは聞いていなかった。

「オヤジさん、こいつに好きなだけ食わしてやって俺に付けといてください。」

 カカシは自分の分のラーメンもそこそこに席を立った。

「カカシ先生、どこ行くんだよッ」
「イルカ先生んち」
「あ、いいなー、俺も行く! ちょっと待つってば」
「だーめ、今日はおまえは遠慮しろ」
「なんでぇ!」
「なんででも」

 じゃあな、と言うなり消えるカカシに頬を膨らませ、そう言えばイルカに言われた「ギフト」の意味を聞き忘れた事を思い出した。

               ・・・

「それは多分、『贈』の意味じゃなくって『賦』の意味で言ったんだと思うわ」

 サクラは地面にガリガリと木の棒で難しい漢字を書きながら説明してくれた。 もちろん全然意味など判らなかった。

「サクラちゃん、もっと判るように説明してくれってばよ」
「だからー、こっちの『贈』っていう字の場合は、望まれた物を贈るプレゼントみたいな意味合いが強いんだけど、こっちの『賦』って時はね、割り当てられて宛がわれるって言うか…」

 望むと望まざるとに関わらず、人それぞれにそうと決められた割り当てを当然の如く与えられる、そういう意味だと、そう言った。

「イルカ先生は多分、あんた一人じゃなくって誰にでもギフトはあるって、言いたかったのよ。」
「…」

 それが俺のギフトだから、と言ったイルカの事はサクラには黙っていた。 理由は今でも判らない。

「ならさならさ、サクラちゃんのギフトって何?」
「あたしー?」

 その物知りで賢い少女のギフトがその賢さや勤勉さそのもで、それ故に人より多くを背負ってしまうのだということも、イルカのギフトについても、自分は随分経ってからやっと解った。