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               - 獣 -


 一瞬、獣の気配が膨れ上がって消えた。

「還って来た…」

 カカシが帰ってきたことを自分に教えている。
 血を纏って餓えている。
 今夜は一晩中貪られると判り、仕度をしていた夕餉の煮物の鍋の火を止めた。
 カチリとコンロの火が止まる音がした瞬間、戻そうとした自分の右手はだが、血だらけの手に握られた。

「カ…」

 首筋がぬるりとした鉤爪付きの手に捕らえられ、顎を掴まれグイと後ろに捻向けられる。 待っていた唇が呼ぼうとした名を飲み込み、握られたままの右手の所為で振り向くことが適わず、イルカは苦しい体勢のままカカシの狂おしい接吻けを受けた。

---まだ遠いと思ったのに

 相変わらず気配の絶ち方は徹底している。 だから態と一瞬だけでもその気配を自分の為に出して教えてくれるカカシが、震えるほど愛おしかった。

 カカシは直ぐにイルカの衣服を掻き毟るように剥いでいった。 いつも思うが、局部だけを晒させて自身を穿つようなことを決してしない。 何故なのか肌の露出が多い事が重要のようだった。 今日はまだ優しい方だが、時にはその鉤爪で引き裂かれる事も稀ではなかった。 だからその合間にイルカは必死で鉤爪付き手袋を外す。 体中に裂傷を負ったこともあった。 そのままアナルに突っ込まれた事もあった。 傷付いた自分も相当辛かったが、正気に戻った時のカカシの落ち込み様があまりに激しかったので、イルカはそれ以来何としてでも手袋だけは外した。 カカシもそれにだけは抗わなかった。 その状態の時はなるべく身体に触れないように気を使うほど、カカシは他者からの接触を嫌がり、イルカに肌を晒させる分、自分は前を寛げるだけだったのに、それでも手袋だけは外させてくれる。 それがカカシの最大限の譲歩のような気がして、涙が零れるのだ。

---こんな状態でも無意識に気遣ってくれる

 ああ、愛おしい。

 だけれども、剥かれる傍から晒された肌に這うカカシの手、何かを探すようなその手付きに、ふと不安を覚える時がイルカにはあった。 探し物が見付からなかったら、カカシは自分を置いてどこか余所へ捜しに行ってしまうのだろうか、と胸が痛むのだ。 台所の調理台に押さえつけられたままで、カカシの手が全身を這い回り、唇と舌と、時折尖った犬歯が首筋に掛かる。 サクリと喰い込んでくるカカシの牙。 だがその時は既にカカシの浴びた血がイルカに移り、少しばかり流されたイルカの血など、全く気にならなかった。 イルカは血に酔った。 頭がクラクラと揺らめくほどだ。 自分が被った時は嫌悪しか沸かないが、カカシが被った血を分け与えられるようにカカシの身体から擦り付けられて白い肌を赤く染める時だけ、その香りに酔ってしまう。 イルカは陶然と血に汚れた背後のカカシの顔を振り返り、強請った。

「もっと、もっと噛んで」

 それがあなたの捜しているものならば、もっと深くまでその牙を穿ち、自分の血であなたが浴びた血を更に赤く染めて、と願う。 だがカカシは、うう、と一声獣のように唸ると、耳から鎖骨の辺りまでを激しく接吻けてきただけだった。

---捜してるのは、これじゃないの?

 イルカは落胆して吐息を吐く。

「ああ」

 するとカカシの指がイルカの既に尖った乳首に辿り着き、そこを転がすように乱暴に撫でた。

「はっ あ、あっ」

 淫らに腰が揺れる。 背中から当る硬く猛ったカカシが双丘の間に押し付けられ、胸の尖りをきゅっきゅっと引っ張る動作と共にカカシは唸りながらイルカを下から小突き上げた。

「ああ、もう、もう欲しい、早く…」

 思わず手を後ろに回してカカシ自身を掴んでしまった。

「うううう〜っ」

 カカシはビクンと跳ねるようにイルカから身体を離すと、一声吼えるように唸ってガブリとイルカの首筋に今度こそ深くその牙を突き立て噛み付いた。 鮮血が迸り、それをカカシがジュルジュルと吸っている。

「あ、ご、ごめん、なさい」

 謝りながらイルカは震えた。 快感が背筋をゾクゾクと這い登ったからだ。 貪り喰われたい、血の一適も残さずに、骨の一欠けらも余さずに。 だが、カカシはすぐ口を離し、傷口を癒すようにぺろぺろと舐め出した。 傷は思ったほど深くはなかったようで、血もそれ以上は流れてこなかった。 イルカはまた落胆した。
 カカシの手はついにイルカの前に回り、ぷるぷると涙を零して震えるソコをぎゅっと強く握り締めた。

「あ、んん」

 そうすると何かを思い出したかのように、もう片方の手が双丘を押し分ける。 血を纏った指はだがもう乾いており、二三回撫でるようにしてから直ぐに差し込まれてきたカカシの指に、イルカは思わず苦痛の声を上げていた。

「いっ、うっ」

 震える腕を前に伸ばして目に入ったサラダ油の小瓶を掴み引き寄せる。 ガタガタと旨く動かせない指で何とか蓋を抉じ開けると、後ろ手にそれを自分の尻に流し掛けた。 次の瞬間、アナルに差し込まれていたカカシの指がズルッと引き抜かれ、パシンっと油の小瓶を跳ね飛ばす。

---間に合ったか…

 少しでもカカシの指先を滑らせられればよかった。 何をしたがり何を嫌がるのかは、同じ事も有ればその時その時で違う事もある。 試行錯誤だった。 訝るように油で滑るイルカの双丘を幾度か撫でると、その滑りを纏った指に納得したかのようにカカシはまた唸った。 そしてゆっくりイルカを犯す。

「あ…、ああ…」

 なんと入ってきたのはカカシ自身だった。 カカシは自身に油を擦りつけたのか、ヌクリと抵抗なくすぐにカリの部分までが飲み込まされ、イルカは仰け反って震えた。

「あーー、う、ふっ」

 前を掴んだ手と、先程までアナルを犯していた手が今度は腹に回り、カカシは間を措かず自身を全て突き込んできた。

---太い…

 苦しい。

「い、いやぁっ」

 また手が前に回って自分を掴む。

「あ、や、ん、んん」

 前を扱き、奥を突かれる。 目の中に星が散った。

「うう… うううう…」

 カカシが唸って一回目の精をあっという間に放った。 だがまだ太く硬いままのカカシは、間髪を入れず注挿を再開させてくる。

「ああっ い、あうっ」

 イルカを握ったまま離さない手に、萎えて震える自身を容赦なく扱き続けられ、イルカは身悶えて泣いた。 下腹がビクビクと不随意に痙攣し、中のカカシもその度に締め付けるのか、カカシが併せたように背中で唸る。 それが気持ちよいのだろう。 カカシは延々とそれを続けた。 今日はこれが気に入ったとばかりに、達かされては扱かれ、また育て上げられては達かされる。 辛かった。 好くて、辛くて、目からは涙をぽろぽろ零し、口からは唾液を垂れ流して喘いだ。 だが、カカシがやっと彷徨わす手をイルカの腰に落ち着かせ、腰を振ることに専念しはじめたので、イルカはほっと安堵した。 ああよかった、今回もこのまま自分の傍に居てくれる。 そう思い、いつしか快楽に身を任せた。 後ろで獣のように腰を振りたてるカカシの唸り声が、徐々にだが人間の呻き声になっていく。 それを感じながら自分も喘ぎ呻いた。 だが自分から腰を振る気力は既に無く、イルカは流しの洗い場に上体をのめり込ませたまま、後ろをカカシの何時までも萎えない猛ったモノに犯され、前をカカシの手に犯されて、放心したように喘ぎ続けた。



「あああ、イルカ…」

 どのくらい経っただろうか、カカシが吐息と共に自分の名を呼んだ。

---人に、戻った…

 イルカはそこで、一旦意識を手放した。

               ・・・

 気がつくと、のしのしと廊下を歩くカカシの腕に横抱きに抱えられていた。 風呂に向かっているようだった。 見上げると、その目は真っ赤に燃え上がり、人には戻ったものの、まだ本能のみに衝き動かされていると知れた。
 カカシと共に冷たい水のシャワーを浴び、こびり付いた血を流す。 そして濡れたままベッドに投げられ、そこでまた貪られた。 獣の時はただ腰を振るだけだったカカシは、人に戻った途端、その手管を駆使してイルカを鳴かせる。 そうしてイルカが身悶えて喘ぐと、気持ち良さそうに何回もイルカの中に放った。 本当にこれでギリギリまでチャクラを消費して消耗している人間だろうかと思うほど、カカシの欲望は尽きることを知らず、イルカは一晩中喘がされた。


               ***


 許して許して、とイルカが何回も請うていた。 何をそんなに許して欲しいのだろう? イルカの言うことだったら自分は何でも許すのに。 ああ、ああ、とイルカが泣いている。 どうしてそんなに泣くのか、誰が泣かしているのか。 イルカが震える両手をこちらに伸ばして縋る瞳で見つめてきた。

「カカシ」

 ああ、嬉しい。 名を呼ばれる喜びは、イルカに教えられた。 愛しいイルカ。 その腕を掴み、接吻ける。 固く抱き締め、そして先程から熱くて気持ちよくて堪らない自分自身をイルカに…強く深く、突き・こ・み…

「ああっ もう許してぇ」



 ハッと目覚めて飛び起きると、そこはイルカの家のイルカのベッドだった。

---しまった、またやっちまった

 まだイルカの叫び声が耳についている。

「イルカ先生」

 台所の方でイルカの気配がしていたので、慌てて呼んだ。 自分が行けばいいのだが、まだ身体が重かった。 程なくパタパタとスリッパを鳴らす音が近付いてきてスルリと襖が開いた。

「カカシさんっ 目が覚めましたか?」

 イルカは走ってきた。 小走りだったけど。 だから大丈夫だ、きっと。

「イルカ先生、こっちきて、早く」

 でも確かめるまで心配で仕方がない。 自分が何をしたか、何一つ思い出せないから。 イルカは苦笑しながら、エプロンで手を拭き拭きベッド際まで寄ってきた。

「大丈夫ですか? 身体、まだ辛いですか?」
「俺は平気。 イルカ先生は?」
「何言ってんですか」

 とイルカは笑ったが、答えを濁されたと思った。 だから腕を掴んでベッドに引き込む。

「カカシさんっ 何するんです、もう」

 今朝飯を、と言いながらもイルカは自分の腕の中に収まった。 そしてほうと吐息を漏らす。

「よかった、今回もご無事で…。 おかえりなさい、カカシさん」
「うん、ただいま、イルカ先生。 俺何日寝てた?」
「今日で三日目です」
「そんなに?」

 じゃあ傷が残ってるギリギリだな、と安心して和みかかったイルカの身体をベッドの上で組み敷いた。

「カカシさん?」
「俺、またあなたに酷いこと、しなかった?」
「だ… 大丈夫ですよ、一晩中抱かれましたけど、いつもよりずっと、あっ」
「なに、これ…?」
「そ、それは…」

 イルカの襟元をグイと引っ張って、首から鎖骨辺りまでを晒させた。
 首筋にポツポツと残る赤い穴。 それをを囲うようにある歯型。

「俺、噛んだ? ってゆーかこれ… 俺、あんたの首に噛み付いて血でも啜った?」

 ねぇ、と重ねて問うと、イルカは首のその部分に片手を宛がって隠した。

「噛まれましたけど、ちょっとだけですから」

 頭にカッと血が昇った。
 俺ってヤツは、やっぱりイルカを傷付けて…
 今は平気そうな顔をしているが、きっと昨日あたりまで歩けなかったに違いない。
 イルカのズボンに手を掛け引き摺り下ろす。
 確かめずにはいられなかった。

「な、なにやって…、や、やめてくださいっ カカシさんっ」
「確かめる」
「な…」

 息を飲んで絶句するイルカを放って、下着を下ろし、足首を掴んだ。 それまで呆けたようにされるがままでいたイルカが、途端に猛烈に暴れ出した。

「や、やめっ いやだっ」
「ダメっ」
「大丈夫ですったらっ」
「信じられないっ」
「…」
「あんた、嘘吐きだもの」

 前にもそんな事があったから、と付け足すと、絶句したままだったイルカは顔を真っ赤にして唇を震わせた。

「で、でも、こんな朝で、あ、明るいし」
「明るくなくちゃ見えないよ」
「でもっ」
「ねぇ、お願い。 俺の為だと思って」

 イルカは両手で真っ赤な顔を覆うと、うう、と一声呻いてから身体の力を抜いた。

「とっとと済ませてください」

 消え入るような声だ。

「イルカ先生、かわいい」
「ば… バカなこと言ってる暇あるなら、俺もう行きますっ」
「おっと」

 また身体を起こそうとするイルカの足首を掴み直し、グイッと両側に大きく開く。 また上の方で、うう〜と呻き声がした。

「よかった… 切れてはいないね」
「代わりにサラダ油一瓶犠牲にしましたけどね」

 イルカのアナルはポッテリと赤く腫れてはいたが、裂けたり切れたりはしていなかった。 そうか、サラダ油使ったのか、偉いぞ俺。 うん?

「サラダ油? お勝手でヤッタの、俺達」
「そ、そうですよ… も、わかったんなら、離してくださ」

 だがイルカはその先の言葉を続けられずに、ヒクリと全身で戦慄いた。

「な、にしてっ やめっ 離してっ あっ」

 ポッテリ赤いイルカのアナルに接吻け舌を這わし、そして尖らせた先端を捩じ込んだ。 イルカはジタバタと暴れたが、腿を抱き込まれ身体を肩だけで支えるくらいに浮かされていては、それも大した抵抗にはならなかった。

「い、嫌です、カカシさん、まだ痛いから」
「む〜」
「そこで喋んないっ」
「むっむー」
「離せって言って… あ…」

 目の前でイルカが反応を示してきたので、それを握った。 それは当然の行為だと自分は思う。 だがイルカは身体を思い切り跳ねさせて暴れた。

「カカシさんっ やめてくださいっ もうこれ以上は…」

 ぬうっぬうっと舌を抜き挿しさせるとイルカは息を呑んで黙った。 諦めたかな? 両手がシーツを握ってブルブル震えている。 まだまだだな〜。 早く諦めて落ちてしまえばいいのに、とカカシは一回顔を上げた。

「イルカ先生、抱くから」
「なに言って…」

 信じられない者を見る目だなぁ、と思う。

「おかえりなさいH、ね?」
「それはもう散々やりましたっ」
「ええ〜 俺覚えてないもん」
「そんなの俺の所為じゃ… あ、ああっ」

 イルカを握ってシコシコと扱く。 だって涙を零して強請ってたんだもの。 これも当然の行為。 そして舌でアナルを犯すのも再開させて顔を忙しく上下させた。 一回イルカを達かせてしまえば何とかなる、きっと。

「い、いやぁ」

 かわいい鳴き声。 イルカはまた真っ赤を通り越した顔を両手で覆って泣いた。 いや、鳴いた。 それはもう喘ぎ声だった。

---ああ、腰にクルよ、この声

 舌で達かせたかったが、もう自分の方が待てなくなってしまい、舌を引き抜くと指を纏めて二本捩じ込んだ。

「あうっ」

 イルカが腹を窪ませて引き攣った。 コリコリと前立腺をすぐに責める。 だってもう俺我慢の限界。 ただ身悶えるだけになった体をベッドに下ろし、ペニスとアナルの2点攻めでイルカを達かせた。 イルカはハァハァと胸を喘がせて、早急に登り詰めさせられた後の激しい脱力感にグッタリしている。 今のうちだ。 自分のペニスを取り出すと、二三度鍛えて直ぐにイルカに宛がった。

「う… うん、ふっ あん」

---あーれ、なになに、なんだかいやらしっぽい喘ぎ声だよ?

 ぬぬーっと突き込むと、イルカは喉を晒して仰け反ったが、萎えたはずのイルカ自身がまたプルンと勃起ってきた。 だからそれを握る。 これ必須。

「ん、やぁ」

 のりのりだ…。
 よ、よし、一気に攻めろっ

 足を担ぎ上げて腰を振った。 帰ってきたって気がした。 身悶えて喘ぐイルカが凄く色っぽくて煽られて、なんかすっごく頑張った。 頑張ったんだけど…

「あ、あれ? あら〜…」

 気が、遠くなってきてしまいましたとさ。

               ・・・

「ばかっ」

 イルカにポカリと頭を殴られた。 こっちは動けないのに卑怯だな、と思う。

「もう、だからおとなしく寝てればいいものを!」

 だって、だってさ、イルカ先生だってあんなにノリノリだったくせに…

「なんですって?」

 怖い顔で睨まれた。 首を竦めて布団を被る。

「い、いいえ、なんでも」

 もう、と溜息を吐きつつイルカはヨタヨタと立った。

「大丈夫? 中途半端だったよね、ごめん、痛てっ」
「ばか!」

 さっきより強く殴られ頭を自分で撫で撫でしながらイルカを見ると、少しほっとしたように顔を緩めて微笑むイルカの顔が待っていた。

「ご飯、食べられますか?」
「はい!」
「じゃ、用意してきますから」

 そう言って、イルカはまたヨロヨロと部屋から出て行った。 後でちゃーんと最後まで面倒みなくちゃ、と思う。 とその時、

「ああーー……」

 イルカの落胆が混じった叫び声が台所から響いてきた。
 運ばれてきた朝飯は、ちょっと焦げ付いたワカメと豆腐の味噌煮と、白飯といかにも味の染みてそうな煮物。
 変なメニュだな、と思う。
 味噌汁は?って聞いたら、またポカリと頭を殴られた。