ShortShort




               - 騎 -


「そんなに… ぐいぐい、開かないで… ください」

 気持ちよくて眠りそうだった。 イルカの滑らかな太腿の内側が好きだ。 そこに手を這わせ、思い切り両側に開かせて腰を押し付けて上体を揺らしていた時だった。

「関節、辛いんですよ」
「ああ、これ?」

 スルスルと手を滑らせ、膝の裏まで辿ると持ち上げて両方肩に担ぐ。

「これでいい?」
「それだと、背中が… あ、あ」

 目の前に来たイルカ自身に誘われるように手を伸ばし、握った。 イルカの中がきゅうきゅう締まる。

「ああ… きもちぃ…」

 目を閉じてイルカを扱きながら腰を揺らす。 まだ達かないでこのまま暫らくこの熱くてヌメヌメした中に居たいと思った。 だから強くはなく、ゆっくりとだが先端が奥の内壁に掠るように、ゆらゆらと唯揺れる。

「あ、あ、ん」

 イルカの喘ぎ声も耳に心地いい。 少し高めのテノールが、喘ぐ時は更にもうちょっとだけ高くなり、甘えた響きになった。

「う、後ろからじゃ、ダメ…なんですか」
「背中辛いの?」
「辛いです」
「だって、あんたの達く顔が見たいんだもの」
「顔なんて、見てないじゃ、ないですか、あっ」

 ぐぐーと身体を倒しイルカを二つ折りにする。 もっと苦しくなっちゃったねぇ、と思いながら、だが手の中のイルカがビクビクっとして涙を零したので、なんだ気持ちいいんじゃない、とイルカの膝が胸に着くまで押さえつけると、首を伸ばして唇を舐めた。

「見てるよ、ほら」

 そのまま体重をかけ、腰だけぐりぐり回した。 イルカは眉をぎゅっと顰め、物凄く苦しそうな顔をして息も絶え絶えに喘いだ。

「イルカ先生、身体柔らかいね」
「う、うん、くる…し、は、ああ」
「俺は気持ちー」
「は、早く、達けっ このっ」
「ええー、だってすんごく気持ちいんだもん、もうちょっとこのままいたい」
「せめて、た、体位を、なんとかし…ろって、んっ んんっ」
「顔が見えないのはやだよ。 なんならアンタが上になって自分で動いてくれる?」
「え…」

 イルカが息を呑む気配が伝わってきて、またいつの間にか閉じていた瞼を押し上げる。 イルカは目を見開いてこちらを凝視していた。

「なに? やっぱり上は嫌?」

 動きを収めて問うと、イルカはちょっと小首を傾げながら小さく首を振った。

「いえ、そうじゃなくて… あなたは自分の動きが制限されるような体位は、絶対したがらないと思ってたので」
「ああ」

---そっか、そうね…

 でも、と思い口端を引き上げて笑うと、イルカはますます首を傾げて見上げてきた。

「何かおかしいですか?」
「ううん、そうじゃなくて。 いやさ、そういう時はイルカ先生が身を楯にしてくれるんじゃないかなって思ってさ」
「…そう、ですね」

 イルカは口を引き結んだ。

「では、今日は俺が上になりましょう」

 そう言って肘を立て、身体を起こそうとするので胸を押さえた。

「やっぱいい。 なんだかアンタを苛めたくなったし」
 
 また太腿を掴んでこれでもかと大きく横に押さえつけると、グリングリンと腰を回す。 イルカのアナルがグチュグチュといやらしい音を立て、イルカの口が叫び声を上げた。

「あっ ああっ や、やめっ あうっ」
「やーめなーい」
「そ、そんなに、俺が、ん、信用、できませんかっ」

 叫ぶ。
 叫ばれた。

「そういうんじゃないよ」

 はぁ、と溜息が漏れる。

 そういうんじゃない。
 ただ、イルカが自己犠牲精神なんか持ち出したから、ちょっと機嫌が悪くなっただけだった。
 ま、自分がそう誘導したんだけど…

「ただ苛めたいだけだって」

 また少し動きを止めてイルカの頬に貼り付いた真っ黒な髪を掬い上げる。 眦から幾筋も涙の跡ができていた。

「そ、そういうのは、また、後日に譲って、今日は、俺に任せませんか?」

 イルカは息を整えつつ言い募ってきた。 珍しい。 この男がこんなに自分を通そうとするのは。

「どうして?」

 理由があるに違いないと思った。

「あなた、疲れてるみたいだし」

 ここは結界があります、大丈夫ですよ、と更に畳み掛けてくる。 そんなこと気にしてる訳じゃないと何故判らない? と苛々した。 イルカの労わるような目付きが気に入らなかった。 だが、実際とても疲れていた。 任務帰りでクタクタだった。 だが欲求が収まらず、こうしてイルカの元へ来たのだ。 それを見透かされて尚一層気持ちがささくれ立った。

「じゃやってよ。 その代わり、ちゃんと俺を達かせてよね」

 不貞腐れて、乱暴に自身をイルカから引き抜き、踏ん反り返って胡坐を掻く。 イルカは一回呻いてから、ようやっと呼吸を整え整え起き上がると、カカシの胸にそっと手を押し当ててきた。

「横になってください。 その方が楽だから」
「病人じゃないよ」
「怒らないで」
「怒ってなんか…」
「今日は、今日だけでいいですから、俺に任せて」

 ね? とイルカはまた小首を傾げた。

---この顔に弱いんだ、俺

 イルカに押されるまま身体を倒し、跨ってくるイルカをじっと見つめる。 こういうのも偶にはいいな、と内心で思った。 気分もちょっと良くなってきていた。 イルカの全てがよく見える。 いい眺めだ、と思う。 イルカの身体が好きだ。 引き締まった筋肉も、すんなり延びた細めの手足も、涙を滲ませ震えるアソコも。 ただ、いつも自分の下で身も世もなく喘いでいるイルカしか見たことがなかったので、あまり期待はしていなかった。 だが、イルカは上手かった。

               ・・・

「ショックだ」
「なにが」
「イルカ先生ってさ、騎上位が上手いんだ」
「へー」
「…驚かないの?」
「なんで」
「だってさ…」

 めんどくさそうだなぁ相変わらず、と隣で欠伸をしながら煙草を噛む(一応)友人を見遣る。 コイツにはイルカ先生がセックス上手でも関係ないか、と溜息を吐くと、アスマは意外な事を言ってのけた。

「別に、おまえが初めての相手って訳じゃないんだし、いいだろう、そのくらい」
「俺が初めての相手じゃないって、なんで知ってんの?」
「そりゃあおまえ…」
「なに、アンタも世話になった口?」
「ま…まぁそのへんはそれ、言わぬが華ってな」
「ふーん」

 自分達は所謂セフレだ。 そうだよ、いいよ勿論ね。 彼が過去に何人の上忍に身体を弄らせてたって、足を開いてたってさ。 あの熱くてしっとり湿っててネットリと俺を離さない気持ちいい中を、誰が何人知ってようとさ。 あの、色気ムンムンで自身を扱きながら俺の上で淫らに身体を揺すってたイルカを、何人の上忍が見てようと…。

 急にむっとしてカカシは剥れた。

「なんだよ」
「別に」
「だったら変な殺気垂れ流すな」
「放っとけよ」

 ああ、苛々する。
 なんでだ、いいだろ?
 俺達、セフレだろ?
 いいじゃないか、イルカが他に何人知ってようと、俺の他に何人のお世話をしてようと…

 そこでふと気になった。

 イルカの過去は過去として
 今は?
 今も俺以外にも処理の相手をしてやっているのか?

 恋人同士じゃない
 イルカを縛れない
 イルカが他の誰かに抱かれたって俺は…

 苛々した。
 その時、目の端にイルカの姿がチラリと映った。
 誰か体格のいい男の身体の影からだった。
 少し身体をずらす。
 イルカの顔が見えるように。
 イルカはその大男を仰ぎ見て、頻りに首を振っていた。
 男の手が、イルカの肩を掴んだ。

「イルカ先生」

 気がついたら、声を掛けていた。

               ・・・

「ああいうの、困ります」
「ああいうのって?」

 今夜は組み敷いていた。 イルカを逃がすまいとしているようで、自分でも可笑しかった。

「昼間の」
「あの男と寝たかったの?」
「カカシさん…」

 二日続けて夜這うのも実は珍しい。 これでもイルカの身体を慮っているのだと思うと、また可笑しい。

「あの人は、あなたのシンパですよ」
「俺の?」
「そうです。 だから、ああいう風に俺を庇いたてするような事されると、返って刺激してしまって…」
「後で何かされるの?」
「そういう事もありますから」
「ふーん」

 初耳だった。

「だいたい、俺とあなたは仲が悪いことになってるんだし」
「へ? なんで?」
「もう忘れたんですか? 中忍試験推挙の時、揉めたの」
「ああ、アレ」

 ははは、と乾いた笑いが漏れた。

「アレはアレ、これはこれでしょうに」
「そんな風に割り切れるの、あなただけですよ」
「ふー…ん」

 それは…
 イルカも割り切れてない、と言いたいのだろうか

「アンタもそうなの?」
「俺は… ん、あなたに無理矢理、割り切らされたんじゃないですか、あっ」

 イルカの中心に手を這わす。

「俺は、いいですって、何回言ったら… あ、あ」
「アンタさ、俺とのこういうのってやっぱりアレ? 上忍の性欲処理とか思ってる訳?」
「ち…がうんですか…」

 眉を切なげに顰めるイルカの顔が好きだ、と思う。 艶っぽい。 色っぽい。 美味そう。 だからイルカを手や口で達かせる事に躊躇はなかった。 寧ろ悦んでやっている。 だが当のイルカは、毎回しなくていいと言った。 切なそうに。

「切ないの?」
「な… 何を言って、あ、あ、んんっ」

 問うているくせに手を休めてやらないので、イルカは禄に喋れない。 喘ぐ。 首を振る。 手を押さえてくる。 そして腹筋を痙攣させ、イルカは果てた。

「ふ、は、うん… 今度は、俺が… カ、カカシさん?」

 カカシはイルカの腿を抱え上げると、萎えて震えるイルカを咥えて吸った。

「あっ やめっ い、痛いから、うう」

 離して、とイルカは悶えて泣いた。 触れられてもいない乳首が、ピンク色に息衝き尖っている。 頬に当る内腿がブルブルと震え、腹筋も震えていた。

---ああ、絶景…

 手を伸ばして乳首を抓る。

「あうっ」

 力を取り戻したイルカが口の中で上下した。

---やらしい

 乳首を捏ね上げ、顔を深く浅く上下させる。 イルカが髪を強く掴んで引き剥がそうとしては逆に押さえつけるような仕草になってしまうのを、気持ちがよい、と感じ、もっと喘がせ悶えさせたいと望んだ。

「は、離して、イク、イっちゃう、ああ」

 2回目だったがなんだか濃かった。

「イルカ先生、すっごく感じてない? ね? そんなに気持ちかった?」
「う… ん… ば、ばかっ」

 両手で顔を隠しているイルカはなんだか泣いているみたいだ。
 そう思って手首を掴むと、意外なほど強く拒まれた。

「離せっ」
「なに? 泣いてるの?」
「泣いてなんかないっ」
「なんで、何で泣くの? そんなに嫌だった?」
「も、そんなの、止めてください… 俺がしなくちゃいけないのに…」
「イルカっ」

 名を叫んで顔から腕を引き剥がす。

「俺を見ろ」
「…」

 イルカはしゃくりあげながらも見上げてきた。

「俺の希は、奉仕じゃない。 おまえだ。 おまえそのものだ。 間違えるな。」
「そ…」

 そんなこと言って…

 イルカはそれきり肩を戦慄かせ、泣き続けた。

               ・・・

 廊下でまた、カカシに出くわした。 また何と間の悪い。 先日のカカシのファンと一緒の所だった。 いい気になるなよ、と釘を刺されていた。 そんな事、言われるまでもないと思った。 先夜のことは閨中の睦言と、真に受けないように自分を戒めていた。 だから唯黙って頷いていたのだ。 相手を煽らないようにと。 なのにカカシときたらこの状況を何と見たのか、然も嬉しそうに近付いてくる。 煽り捲くりもいいところだった。

「イルカせーんせ」

 カカシは満面の笑みを浮かべて声をかけてきた。 この人に学習という文字は無いのか。 だが、その日のカカシの態度は、いつもと決定的に違っていた。 剣呑な殺気が駄々漏れだったのだ。 顔が笑顔のままなので尚恐い。 それも自分に向かってだ。 いつもは何の気配も無い人だった。

「イルカ先生、俺以外のヤツにその身体触れさせたら殺しますよ」

 なんと?
 今何と言った? この男は

 イルカはゆらりと足元がふらついた。 カカシの燃えるような瞳は、ただひたすら自分にのみ注がれて、一緒に居るはずの男の存在を奇麗に無視している。

「カカシ先生…」

 思わず名を呼ぶ。
 愛しい、その名。

 嗚呼!